私の教育実践
「聞くから聴くへ」
                      
愛媛県立宇和特別支援学校長 上甲 廣文
− 主幹教諭配置制度を活かした学校の組織運営体制 −
                      松山市立勝山中学校 教頭 青井 俊憲


「聞くから聴くへ」

愛媛県立宇和特別支援学校長 上甲 廣文  
上甲廣文 人は人生において取り返しのつかない失敗をすることがあるものですが、それが自身の職務上の問題となると時に大問題に発展します。平成9年、教師になって23年目。ベテランと呼ばれてもおかしくない45歳の秋に私のそれは起こってしまったのです。伊予高校に勤務して10年目。私は、学級担任と総勢100名を数える吹奏楽部の顧問を務め、家庭の事情による片道65キロの自動車通勤は4年目を迎えていました。土日も祝日も練習に明け暮れる私にとって、家族を思いやる心はとうにどこかへ置き忘れ、妻の献身的な支えにすら十分な感謝ができない日々を過ごしていたのです。吹奏楽部にとって1年間に参加する校内外の行事は数多く、時にそれは県外にも及びます。しかし、吹奏楽コンクールで全国大会に出場することが常態化することにより、高い演奏技術や音楽性を求めた反面で、私は教師として最も大切なものを見失っていったのでした。

 11月のある日、私は演奏会を終えたばかりの部員たちに何のためらいもなく現状の反省点を求めました。ところが、ここで教師人生最大の事件が起きたのです。一時間後、「先生、すみません。」と顔を曇らせた部長と副部長が口にしたのは、数名の生徒から出されたという「先生が本当に自分たちを思って指導しているのかどうかが分からない」との私への不信の言葉でした。大好きな伊予高校、大好きな生徒。何一つ不足のない条件下において生徒への不満など一つもなく、私はその純粋さとひたすら努力する姿勢に心引かれていたのです。当然のことながら生徒を思わない、考えないことなどあろうはずもなく、その一言は教師としての在り方・考え方を根底から覆すものとなりました。正に指導者失格であり、教師として最も大切な心が問い直された一瞬でした。

 授業、学級担任、部活動、父の介護に長距離通勤。自身の都合で生徒に不自由を感じさせることのないよう最大限の努力を払ってきたつもりの自分にとって、自身の真意が生徒に理解されず思うように伝わらなかったこの大失態は、私から教師としての誇りと自信を奪い去ったのです。45歳になった私が生徒の前で大泣きしたのはその直後のこと。ここに及んだ自分がふがいなく、全部員の前で自分の思いのたけを語ったのでした。言ったつもりにやったつもり。慣れからくるこのつもりは、知らない間に生徒の心を傷つけ、両者の間に大きな溝を作って私を裸の王様にしていたのです。更に、この話には人の心の「純」を知らされた大きなおまけがつきました。話はその翌朝へ。出勤した私が目にしたのは、机上に置かれた一巻の巻物でした。中を広げてみると、そこにあったのは全部員の署名の他に「先生の気持ちはよく分かりました。私たちは先生を信じてこれからもついて行きます。御指導よろしくお願いします。」とのメッセージ。一巻の巻物は、しているつもりによっておごり高ぶった自分に対して生徒から送られた教師人生最大最高の贈り物となったのでした。時間は作るもの。あれほど切羽詰まった状況であったにもかかわらず、聴くことに徹し、やり方を変え、何より生徒に寄り添うことでお互いの人間関係が一気に改善に向かったことはいうまでもありません。

 「聞く」という文字は門構えの中に耳があり、門の中から聞く状態。一方「聴く」は、耳だけではなく目と心を併せて聴く状態。「聞くから聴くへ」。聴くは、自身の変化で相手が変わる魔法の言葉なのです。私は、教員生活最後の10年間を特別支援教育と教育相談の中で過ごしましたが、日々の生活は「聴く」を基本とする中にありました。特別支援教育の定義の中に記された「子ども一人一人の教育的ニーズを把握する」には個々の実態把握が必要ですが、そこで重要なことは先ず「聴く」こと。耳+目+心=聴く。私のささやかな教育実践は、hearではない、listen to の姿勢を学ぶ中にありました。

− 主幹教諭配置制度を活かした学校の組織運営体制 −
松山市立勝山中学校 教頭 青井 俊憲

青井俊憲1 本校の概要

 本校は、松山市の中心地、城山の北側に位置し、近くには松山北高校、松山大学、愛媛大学などがあり、文京地区の中にある。生徒数は718名で、学級数は24学級(うち特別支援学級2学級)、教職員数48名の比較的大きい学校である。学校には、PTAの他にも同窓会、後援会、好きです勝中会、また、校区には勝山フェスティバル実行委員会、ロシア人墓地保存会などしっかりとした組織があり、学校の教育活動を支援していただいている。地域の教育力もあり、保護者の教育への関心も高い。

2 主幹教諭制度について

 主幹教諭の職務内容は、学校教育法第37条第9項に、「主幹教諭は、校長及び教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、並びに児童の教育をつかさどる」と定められている。また、主任職は、学校教育法施行規則に「校長の監督を受け、・・・事項について連絡調整及び指導、助言に当たる」と規定されている。
 愛媛県では、「主幹教諭は、命を受けて担当する校務について一定の責任を持ってとりまとめ、整理し、他の教諭に対して指示するとともに、生徒の教育等をつかさどることができる」とし、主任職の「指導、助言」との違いを明確に示している。



3 本校の組織的な位置付け

 平成21年度は、3名の主幹教諭を、教務主任を兼務する教務担当主幹、研修主任を兼務する研修担当主幹、生徒指導・進路指導を担当する主幹として位置付け、それぞれが校務を分担しとりまとめるとともに、1・2・3学年の担当者として学年主任との連携を図りながら学年運営にも参画した。
 平成22年度は、2名の主幹教諭を、教務主任を兼務する教務担当主幹、研修主任を兼務する研修担当主幹として位置付けている。学年との関わりは、昨年度の経験をふまえて積極的に連携を図っている。
 主任職を兼ねている場合に、職務内容がどう違うのか、職員にとってわかりにくいところがある。そこで、4月当初の職員会議において、教頭より、主幹教諭の職務内容と本校での位置付け、および主幹教諭を「○○主幹」と呼ぶように説明した。このことにより、教職員の意識を変えるとともに、主幹教諭本人の自覚も促すことができた。


4 組織的な学校運営

 (1)  校長、教頭、副参事の補佐として


 
校長の学校運営に対する考えや思いを、主幹教諭も折に触れて教諭に働きかけることで、学校運営に対する教職員相互の理解が深まった。

 
教頭・副参事が主として判断していたことを、主幹教諭とともに協議することで、よりよい選択や広い視野からの判断ができるようになった。

 

 
PTAや公民館、地域の会合などに、管理職とともに主幹教諭も参加することで、主幹教諭を知ってもらい、地域との連携や学校との信頼関係の構築に努めている。

 

 
教諭からの相談において、主幹教諭として判断し対応できることは任せて、校長の方針に基づき一定の責任を持ってとりまとめさせ、指示できるようにしている。

 
校内外の文書点検がより細かいところまででき、安心して文書を見ることができている。
 

 (2)  教職員組織の活性化の推進役として


 
 
 
 
大きな教職員集団となると、学年間の連携や調整が難しい面がある。そこで、主幹教諭間で相談し、学年主任と連絡調整することで、学年間の対立や意思疎通を欠く場面が減り、学校全体の協働体制ができつつある。

 
 

 
各主任や教諭の声が、主幹教諭を通して具体的に聞こえるようになり、風通しのよい職場になってきている。また、場合によっては、教頭が直接話をするよりも、主幹教諭を通して指示することで、特に若い教諭には受け入れやすくなった。

 

 
不登校傾向の生徒が登校する教室(フレンドリー教室)への対応を、主幹教諭の時間割の中に組み込むことで、不登校生徒への支援に当たることができ、学級担任の負担を軽減できている。

 
職員朝礼の学年打ち合わせの時間に、各学年の朝読書や自主学習への支援に当たることで、学年の負担を軽減できている。

 (3)  プロジェクトチームのリーダーとして



 
主幹教諭の立場で、学習環境や施設面、行事の運営、生徒指導面などの学校の教育課題を多面的に探り、その課題にどう取り組むかを起案してもらうことで、よりよい学校運営が可能になっている。

 
教職員同士の情報を共有化したり、意見を集約したりすることで、学校の教育課題を焦点化することができている。

5 教頭としての役割

 主幹教諭配置制度における課題もいくつかあるが、与えられた制度を有効に機能できるように活用するのが学校であり、そのための組織マネジメントが管理職に求められている。活用において、最も大切なことは、管理職、主幹教諭、教諭等の良好な人間関係であり、お互いが気持ちよく仕事ができるように環境を整えていくことが教頭の役割であると考えている。そのためには、お互いにコミュニケーションを取り合いながら、主幹教諭がその職務をリーダーシップを発揮しながら、スムーズに遂行できるように支援することが大切と考えている。



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