学校紹介
~「自他の生命を尊重し、
たくましく『生きん(生きよう)』とする生徒」の育成~

八幡浜市立松柏中学校 教諭 楠井徳久


1 はじめに
 これが我が松柏中学校の校歌です。
 〈1〉 千丈の清き流れに/つどいたる若き命よ/友愛のあつきちぎりに
       むつまじく正しく生きん/ああ松柏/我等が学友
 〈2〉 夜昼の峯の夜明けに/かがやくは若き瞳よ/いやたかき誠の道を
       一すじに求めて生きん/ああ松柏/我等が理想
 〈3〉 宇和の海緑たゆらに/みなぎるは若き力よ/ふきすさぶ嵐に耐えて
      たくましく雄々しく生きん/ああ松柏/我等が母校』 
 本校の校区は、八幡浜市のほぼ中心に位置するJR八幡浜駅から市の東部にかけて広範囲に広がっています。家屋は、校歌にもうたわれている「千丈(川)」流域に広がる低地帯と、それをはさむ両側の山間部に集中しています。国道197号線が校区内を貫通しており、「夜昼(トンネル)」を越えると、隣の大洲市となります。  
 校区の大部分が静かな田園風景の広がる農村地帯でしたが、近年、市営住宅や民間の住宅・アパート等が次々と建設され、それにともなうサービス産業の進出によって急速に市街化が進んできました。
 2 本校の実態
 
 本校は、生徒数125名の小規模校です。穏やかで素直な生徒が多く、各教科の学習や生徒会活動などに積極的に取り組んでいます。教職員は、男性12名、女性6名の計18名です。平成9年度から学級担任・副担任によるティームティーチング(以下TT)を学級経営に導入してきました。 道徳や学級活動の時間だけでなく、朝の会や終わりの会、教育相談や日記指導など、多くの場面で二人の教員が生徒と関わっています。平成25・26年度の2年間、愛媛県「特色ある道徳教育推進事業」の研究指定を受けました。本校の特色であるTTによる道徳の時間の充実、生徒の自主的組織である人権サークル「プログレス」の活動の充実により、「自他の生命を尊重し、人とのつながりを深め、たくましく生きようとする生徒の育成」という研究主題を設定し、研究に取り組みました。今回は、その取組の一部を紹介したいと思います。
 
 3 道徳の時間の充実
 
 道徳教育の要としての「道徳の時間」は、学校の教育活動全体を通して行う道徳教育を補充、深化、統合する時間であり、授業の際の資料の役割はとても大きいと考えます。本校では、「三つの命の視点(かけがえのない命・支え合う命・つながる命)」に重点を置いた資料の選定や創作を行い、その効果的な活用の研究を進めてきました。
 
   
(1)TIによる授業実践
 道徳の時間をTTで行うことは、授業展開での効果のみならず、生徒の実態把握、資料分析や発問などについても二人で深められるという大きな利点があると感じています。本校では平成16年度に「心に響き、共に未来を拓く道徳教育の展開(文部科学省)」を参考としてTTの形態を類型化しています。各類型の指導方法・役割分担は、以下のとおりです。
 

形態

TTの指導方法・役割分担

一斉

一人が授業をし、もう一人が補助(資料掲示、板書など)を行う。

一人が授業をし、もう一人が生徒の考えを揺さぶる補助発問などを行う。

教員の個性、専門性を生かした役割分担を行う。

全体指導(発問、板書)と個人指導(助言、支援、評価)を分担して行う。

グループ

小集団学習でグループごとの担当を決めて行う。

考え方の違いでグループや個人を分担して行う。

 
(2)実践事例

Ⅲ型を取り入れた授業実践〈第2学年「三日間命の輝き」〉

 教員の個性を生かしたⅢ型で実践しました。出産を控えた副担任が母親の思いを語ったことによって、クラスは温かい雰囲気になるとともに、生徒は発問について真剣に考えることができました。

 

イ Ⅴ型を取り入れた授業実践〈第1学年「ぼくのおばあちゃん」〉

 自分の考えをなかなか言葉にできない生徒や、自信が持てずに全体の場で発表できない生徒がいたため、Ⅴ型を取り入れました。グループごとに話し合う場面を設定し、グループごとの担当を決めて支援し、意見交換が活発になるよう工夫しました。その後の意見発表の場面では、自信を持って発表する生徒が多く、V型の効果が十分に発揮されたと感じました。
  4 人権サークル「プログレス」の取組
 「プログレス」の活動のねらいは、友達との関係性を見直し、人とのつながりを大切にし、共に支え合おうとする姿勢を身に付けることです。「集会」「啓発」「人権劇」の3コースがあり、それぞれのコースの特徴を生かし、様々な活動を行っています。冒頭の「校歌」と共に人権ソング『前進』(平成 14年度完成)も大切に歌い継がれています。
(1)集会コース
 人権の日集会は、 毎月第4木曜日を「人権の日」と設定し、実施しています。プログレス部員による企画・運営で、全校生徒参加によるエクササイズを行っています。他学年や違う部活動の生徒が会話をしたり、グループで協力性を発揮して活動に取り組んだり、人間関係を広げるきっかけ作りを行っています。 
   
 
 (2)啓発コース
 機関紙「Don't be alone」の発行や「松中団結宣言(人の嫌がることをしない/言わない/見逃さない)」についてのアンケート集計や啓発、心温まる言葉などを掲載したポスター作りなどの活動に取り組んでいます。  
 
 (3)人権劇コース
  人権劇の上演を行います。写真は、昨年度上演した「スタートライン」の一場面です。上演に関わったプログレス部員はもちろんのこと、全校生徒の人権意識の高まりがうかがえました。後日、劇を通して「命」について考えたことなどについて意見交換する人権話合い集会を設定したことにより、自分たちの課題を再認識し、改善していこうとする道徳的実践力が高まった様子も見られました。  
 
  5 おわりに
 平成25・26年度の2年間、「三つの命の視点」に重点を置いた実践を行ってきました。指定校としての研究は終えましたが、今後も生徒一人一人が、「かけがえのない一人の人間として大切にされ、頼りにされていることを実感でき、存在感と自己実現の喜びを味わうことのできる学校」にしていきたいと強く思います。そして、冒頭の校歌のとおり、「自他の生命を尊重し、人とのつながりを深め、たくましく『生きん(生きよう)』とする生徒」の育成に努めたいと思います。