私の教育実践


私の教育実践―とことん子どもを好きになる―
愛媛県立今治特別支援学校 校長 菅 俊雄
私の教育実践―ふるさと美川を愛してやまない生徒たち―
久万高原町立美川中学校 校長 正岡 洋介



私の教育実践-とことん子どもを好きになる-
愛媛県立今治特別支援学校 校長 菅 俊雄
 
  本年4月、新規採用から8年間お世話になった本校に26年ぶりに帰ってきました。東に石鎚山、西にしまなみ海道を望む風光明媚な環境にある懐かしい学び舎で、 毎日、校内を廻りながら当時と何が変わり、何が変わらず受け継がれてきたのかということを実感する1学期でした。
 
 昭和54年4月、わが国では養護学校義務制が施行され、本校と宇和養護学校(現宇和特別支援学校知的障がい部門)が開校しました。これにより昭和 48年に開校した第三養護学校(現みなら特別支援学校)と合わせて、東・中・南予に知的障がいのある子どもが学ぶ学校が整備されました。 それまで、就学猶予や免除になっていた子どもや保護者の皆様にとって、「毎日通う学校ができた。」という喜びはとても大きなものであったでしょう。 そうした状況の中、本校開校4年目の昭和57年4月、新規採用教員として本校に赴任した私は、小学部6年生6名の担任として教員生活をスタートしました。 初めて子どもたちから「せんせい」と呼ばれ、「自分の学級の子どもができた。」という喜びを、今もしっかり覚えています。 しかし、当時の私の売りは「若さ」と「元気」だけ。 今のようにパソコンなどなく、手作りのアナログ教材作りに励んだり、教室にいるより外にいる方が長い、というまさに体当たりの1年間が終わって発行した「卒業文集6星だより」は、 大切な宝物となっています。
 
 また、6名全員が寄宿舎生ということで、舎監として月に数回、生活を共にしたことも印象に残っています。 土曜日も学校があり、しまなみ海道がない時代でしたので、島嶼部など、自宅が遠距離にある子どもの中には月に1回程度しか帰省できない者もありました。 その月に1回の帰省日に桜井のバス停から20分近くかけて迎えに来て、たくさんの荷物をもって子どもと帰省する保護者の皆様の姿を見るたびに、 本校にお子様を就学させた思いに応えるためにも「この子どもたちをとことん好きになろう。」という思いを強く抱いたものでした。 好きになったら「もっとその子のことを知りたい。」という思いがつのります。 そして、その子を知る(実態把握をする)ことで、具体的な指導の手立てが見えてくる。これが、障がいのある子どもの教育に携わってきた私の原点であると考えています。
 
 さて、本校は今年度、開校38年目を迎えました。平成8年度の高等部設置、平成13年度のスクールバス運行開始など、前回に比べ、 教育環境が大きく変化するとともに、自閉症スペクトラムの子どもの割合が増加するなど、在籍児童生徒の実態も多様化しています。
 
 今年度、最初の全体職員会で、次のことについて共通理解を図りました。
 コミュニケーションを大切にする。(伝えたつもり、教えたつもり、決め付けの排除)
 経験値が異なる教職員が互いに尊重し、連携して業務を遂行する。
 チームワーク、ヘッドワーク、フットワークを大切にする。
 本校での立ち位置、存在意義を見つける。(自身の専門性や得意なこと、これまで積み重  ねてきたことを、いかに本校バージョンに置き換えるか、活用するか。)
 一番身近な支援者である保護者との良好な関係作り、連携に努める。  
 
 特別支援教育の制度に転換されて10年目の今年、4月1日には障害者差別解消法が施行されました。 そうした時代の流れの中で、本校教職員は個性豊かな児童生徒に真摯に向き合い、個々の特性等に配慮しながら、時に優しく、時には厳しく指導に当たっています。 これが、開校以来、よき伝統として引き継がれてきたものです。 今後もベテラン教員や中堅教員、若年教員がそれぞれのよさを発揮しながら「とことん子どもを好きになる」教職員集団であり続けたいと考えています。

 

私の教育実践
ふるさと美川を愛してやまない生徒たちー
久万高原町立美川中学校 校長 正岡 洋介

  松山市から国道33号線を高知方面へ車を走らせること約40km、緑溢れる山あいに久万高原町立美川中学校は位置する。 緑豊かな大自然に囲まれ、面河川や久万川といった美しい川が校区内を縦走する。 面河地区、柳谷地区との統合を経て、西条市や西予市、高知県とも隣接するほど校区は膨大に広がったものの、全校生徒数43名の小規模校である。

  この本校の生徒を象徴するこんな場面がある。 朝の登校時、交通量の多い国道を押しボタン式の信号を渡って登校してくる生徒たち。 その際、横断歩道を渡りきった後に反転し、止まっていただいた左右のドライバーの方々にそれぞれ深々とお辞儀をする。 その後、学校までの約500mの坂道を登るのだが、地域の方の車が通るたびにその歩みを止め、道路の端に横一列に並び、深々とお辞儀をする。 一人も漏れることなく、全員がこのように登校してくるのである。教職員に聞いても誰も指導はしていないとのこと。 地域の方に伺っても美川中の生徒は以前からこの状態であるとのこと。生徒たちに聞いてみると、中学入学時に先輩から教わるそうである。 この光景に出会うたびに、今日も一日子どもたちのために頑張らねばと背筋が伸びる思いに駆られるのである。
 
 本校では、〈学び合う・響き合う・挑戦する〉を目指す生徒像として掲げ、日々の教育活動を実践している。

 〈学び合う〉
  日々の授業における少人数ならではの学び合いは勿論のこと、特筆すべきは地域との学び合いである。 特産品である美川茶の茶摘み体験、地域施設に宿泊しての農業・林業体験、地域の伝統を学ぶ「まなび交流会」等、講師は全て地域人材であり、地域を知り、地域の先人から学ぶ。 まさに地域との学び合いである。

 〈響き合う〉
 互いに響き合う活動として、週に一度「聴こう!話そう!ハートタイム」を実施している。 決して堅苦しくなく、フレンドリーな雰囲気の中で、互いの意見や主張を学級単位で発表し合い、楽しみながらコミュニケーション能力育成の一助としている。 また、本校では伝統的に全校合唱に取り組んでいる。全校生徒が運動部との二足のわらじで各種合唱コンクールへの出場を目指し、日々校内に歌声を響かせている。
 
 〈挑戦する〉
  何事も最後までやり遂げることを目的とし、全校生徒で校内弁論大会に挑戦している。 生徒たちは数か月前から自分の主張を原稿にし、全員が暗記して本番に臨む。 緊張しながらも、身振り、手振りを交えて自らの主張をする姿は圧巻であり、発表後の生徒たちは得も言われぬ安堵の表情を浮かべる。 この緊張と弛緩は、生徒たちを一回り大きく成長させる。 また、地域にそびえる石鎚山系を利用し、非日常的な達成感を目指して全校登山にも挑戦する。 互いに励まし合い、歯を食いしばりながら挑戦した後に待ち受ける雄大な大自然の絶景は、どんな教科書よりもふるさとのすばらしさを教えてくれる。

 すばらしい伝統と大自然に包まれ、健やかに、そしてふるさと美川を愛してやまない美川中学生に成長する生徒たちの姿を目の当たりにし、私は日々感動している。