「えひめ教育の日」推進大会が、「「えひめ教育の日」推進会議」の中野会長をはじめ多くの関係者の皆様方、並びにえひめ若年人材育成推進機構の共催のもと、盛大に開催されますことを、心よりお喜び申し上げます。
 
 3年前に、11月1日が「えひめ教育の日」に定められましたが、語呂合わせで「いいひ」と読む、大変いい日を選ばれたと思っています。皆様には、愛媛で一番いい日は「えひめ教育の日」であると、大いに喧伝いただきますようお願いします。

 私は文部省の出身であり、文部省では入省後、まず、明治5年に発布された学制を覚えさせられます。学制とは、全国津々浦々に、小学校5万校をはじめとした学校を設置する太政官布告で、その中に、「邑に不学の戸なく、家に不学の人なからしめんことを期す」という言葉があります。

 余談になりますが、私が国立劇場の理事長をしていた時に、この学制発布130周年記念式典が国立劇場で開催され、天皇陛下の先導役を務めさせていただいたことがあります。陛下は四角く折った紙を読み上げられるのですが、この中の「不学の戸なく」の「と(戸)」の字にふりがながふられてなかったため、天皇陛下から、「これは不学の『こ』ですか、不学の『と』ですか」と御下問をいただき、「私の名前は加戸(かと)でございますが、学制の方は「こ」とお読みいたします」と申し上げ、面目を施したことがありました。

 学制で掲げられているのは、「身を修め、智を開き、才芸を長ずる」という3つの目標です。私は、「智を開き」ではなく、「身を修め」からスタートしていることが大変気に入っており、これが教育の根本理念であると強く意識しております。
 
 残念ながら、終戦で、学制の趣旨の変更があり、昭和22年には、教育基本法が制定されて、教育の目的は、「人格の完成を目指す」という言葉に置き換えられました。しかしながら、人として生きる道を教えるということが、人格の完成につながるわけですから、4年前に教育基本法が改正されましたけれども、「人格の完成を期する」という基本的な考え方は変わっておりません。

 私たちが、教育に関する大きな拠り所としていたのは、18世紀の大哲学者、ドイツのイマニュエル・カントの「人は人によりてのみ人となる、なりうべし」という言葉です。明治時代の翻訳のため、難しい漢文調ですが、人間が、それぞれこの世に生を受けて人間たりうるのは、その先輩である人間が、子どもたちを人間として育てることによってである、という意味になります。人格の形成に当たっては、親や先輩の果たす役割が大きいと言っているわけです。

 また、カントにやや遅れて18世紀後半に、フランスのシャンフォールという評論家は、「教育は、道徳と知恵の二つの基礎のうえに立たなければならない」と言う言葉を残しており、「道徳」を強調しています。なぜ、道徳と知恵、二つの基盤なのかというと、道徳に重点を置けば、結果として、お人よしか、あるいは、イエス・キリストのような殉教者しか生まれてこない。逆に、知恵に重点を置きすぎると、打算的な利己主義者が生まれてくる。シャンフォールは、二つのバランスをとることが大切である、世の中、善人ばかりではなく、道徳と知恵という「両足」を持つことが教育の基本だと言っています。

 日本では、教育は、今申し上げたように、学制の趣旨から出発し、知育、徳育、体育の3本柱、あるいは先年、食育基本法が制定され、知育、徳育、体育、食育の4本柱という言葉も使われるようになりましたが、いずれにしても、人格の完成には、バランスが大切であって、それを形成するための大きな手段が教育であると思っております。

 本日の「えひめ教育の日」に当たっては、愛媛県民が総ぐるみで、全ての場面でえひめの教育を創造していただくことを、ベースにしてほしいと思います。また、教育への意識の高揚こそが、未来を託すえひめの子どもたちの成長を図るものだとも思っております。そして、その基本となるのが、人に対する思いやりの心であり、私が県政を担ってきたこれまでの間、「愛と心のネットワーク」を訴え続けてきたのも、そのことを一つの目標に掲げたからでもあります。

 昭和48年に、愛媛県政発足を記念して、「愛媛の歌」が制定されました。私の母校、八幡浜高校の3年後輩の岩本義孝さんが応募し、入選した歌詞が歌われています。その2番の終わりに、「愛の心が咲いている」という表現があります。
「えひめ教育の日」を契機に、県政発足100年を記念した「愛媛の歌」のとおり、「愛の心が咲いている」愛媛となりますよう、ますますの発展を心から念じ上げます。
 
 私は、一昨日、西原県議会議長に退職の申し出を提出いたしました。任期は残り1ヵ月で、今月末をもって、愛媛県知事を退任いたしますが、どうか、中野会長を先頭に、皆様方が愛媛教育の進展のために、それぞれの場で役割を果たしていただきますよう、切にお願いを申し上げます。
平成22年度 「えひめ教育の日」推進大会 知事祝辞

                               日時:平成22年11月1日
                                     場所:エスポワール愛媛文教会館