私の教育実践

私の教育実践 ~教員生活三分の一の養護学校 そこが原点~
愛媛県立松山聾学校 校長 橋本 加代子

私の教育実践 ―未来を託す生徒たちに豊かな体験を―
砥部町立砥部中学校 校長 柿本 久

私の教育実践
~教員生活三分の一の養護学校 そこが原点~

愛媛県立松山聾学校 校長 橋本 加代子

 教員生活の三分の一を養護学校(特別支援学校)で過ごしました。新採の時、教師の道が自分に適している仕事かどうか悩みながら歩み始めたため、やる気がない訳ではありませんでしたが、「この新採大丈夫だろうか?」と心配させてしまうような雰囲気を醸し出していたかもしれません。しかし、最初に出会った知的障がいの子どもたちが、そんな私を救ってくれました。純真で健気で、気がついたら、くたくたになるまで子どもたちと向き合っている自分がありました。
 子どもたちのおかげで、自分の専門である音楽の受け止め方や表現も変化し、より自由な心で音楽を奏でることができるようになりました。また、学校生活の中で、「人は柔軟な心が大事である。そして、若い内からその柔軟性も鍛えるものである。」と学び、「柳に雪折れなし」のことばを座右の銘にしつつ、毎日、悪戦苦闘の日々を送りながらも、心身ともに強くなっていく自分を感じることができました。
 二校目の第三養護学校(現在みなら特別支援学校)はマンモス校で、新しい課題が次々と振り掛かってきましたが、いろいろなチャンスに恵まれ充実感がありました。そのような折り、短期内地留学に推薦され国立特殊教育総合研究所(現在国立特別支援教育総合研究所)へ行く機会に恵まれました。そこでの講義は、医療・福祉・教育の日本の最先端が学べ、全国各地から集まった仲間と共に、たっぷり情報交換ができ、夢のような時間を過ごすことができました。そして、学校に恩返しがしたいという気持ちが募りました。
 自校に帰ったらすぐに、器楽合奏部を結成し、県の高等学校総合文化祭 器楽管弦楽部門に知的障がいの生徒を初出演させることができました。一緒に部活動をしてくれる教師仲間がいて、生徒も50名程度集まってきました。重度の子どもも入っていました。「部活動したい人は集まれ」という声掛けに、何が何だかわからないけれど流れについて来てしまっている生徒もたくさんいました。それでも、にこにこしながら音楽室に毎日集まってきました。多種多様な生徒の集まりでしたが、「個々に出来ること」を組み合わせていけば曲が仕上がっていきました。「99.9%不可能であっても、自分が動かなければ0.1%の可能性も無くなる、子どものためになると思うなら、前に進むしかない。」という思いでした。県大会から一週間後、校長先生から「全国大会でがんばってきてくださいということだ。」と報告を受けました。0.1%が輝きました。その後、語り尽くせないドラマはいっぱいありましたが、一つ選びます。全国大会前日のエピソードです。ホテルで生活介助の必要な男子生徒の荷物を開けると、その中にピシっとアイロン掛けされた真っ白なシャツがあり、「本番は、このシャツを着せてやってください。」とメモが挟まれていました。この生徒のお父さんは元サラリーマンでしたが、この子が生まれた時に、お母さん一人に子育てを背負わすわけにはいかないと、自宅でできるクリーニング屋さんに転職していた方でした。このシャツにアイロンを掛ける時、どのような気持ちだっただろうかと想像すると胸が熱くなり、いつまでも情熱を子どもたちに傾けて、いい体験をたくさんさせ、御両親にも喜んでもらえる活動をしていきたいと強く誓うような気持ちになった瞬間でした。少し無謀ではありましたが、全国大会を希望したことは、関わった全ての人にとって何物にも代え難い経験になりました。
 今、松山聾学校では、私立の学校と縁があって交流を重ね、二校合同の「手話パフォーマンス甲子園」を目差しています。先日、ビデオ審査を無事通過し、秋には鳥取の大会に出演することが決まりました。舞台芸術はたくさんのことを学ばせてくれるということを、できるだけ多くの人に実感していただきたいと願っている私にとって幸せなことです。

私の教育実践
―未来を託す生徒たちに豊かな体験を―

砥部町立砥部中学校 校長 柿本 久

 令和の時代となり、私の教職員としての勤務は38年目を迎えたが、その後半は学校現場を離れての職場が長く、胸を張れるような教育実践は正直浮かんでこない。そこで、在り来たりで恐縮だが、現任校の砥部中学校において、特に力を入れている取組を二つ紹介する。
 本校は「清流とほたる 砥部焼とみかんの町」砥部町の中央部に位置し、生徒数580名の町唯一の中学校である。
 
【ボランティア活動に学ぶ】
 本校のほとんどの生徒は、地域において年齢の異なる人たちと、豊かに交流する機会を持てないでいる。そのためか、自分のためには行動できても、人のためや身近な集団のために行動する力が、身に付いているとは言えない。そこで、私が力を入れていることの一つに、生徒のボランティア活動への参加がある。手始めとして、各種の団体や施設等の代表の方に、中学生が活動できる場の提供を、生徒の実情を説明し直接依頼をしてきた。有り難いことに徐々にではあるが、「児童館」をはじめ「保育所」「養護老人ホーム」「子育て支援団体」などからも連絡をくださるようになり、今では、本校生徒の活動を頼りにしてくれている。生徒たちは、各種イベントでの準備・片付け・各種コーナーのスタッフをはじめ、施設の清掃、募金活動、幼児とのふれあい、高齢者や障がい者等との交流、被災地での支援活動と、実に多種多様な活動に取り組んでいる。年間の参加生徒数は延べ300名を超えるほどになった。この様に、地域と連携したボランティア活動を通して、生徒が様々な人と触れ合い、社会に貢献する生き方の素晴らしさを体感し、豊かな心を育めるよう力を入れている。今後も、活動への参加を推奨し、活動中の生徒に声をかけるとともに、活動後の成果の称揚にもより一層努めたい。

【先輩の生き方に学ぶ】
 私は常々、生徒たちに「なりたい自分を追求する、アグレッシブな生き方を目指そう」と、期待を込めて投げかけている。そのためには、目標や夢を抱くことの重要性、そして、小さな努力を積み重ねることの大切さや素晴らしさを、生徒に実感させる必要がある。そこで、私は、プロとして活躍する本校卒業生等の著名な方々にお願いをし、生徒が直接話を聞く機会を大切にしている。1学期には、ピアニストを、2学期には、テレビタレントを、そして3学期の少年の日記念集会には、地元放送局のアナウンサーを、それぞれ講師としてお招きした。プロの生演奏、人を魅了するパフォーマンスや語り、スポーツの実況中継など、磨き上げられた技のすごさに、生徒たちは感激や感動を覚えている。さらに、夢を実現したそれぞれの人生の営みから、プロになるための不断の努力とプロとして通用するための日々の精進に、深い感銘を受けている。今後も、生徒が自らの生き方を真剣に考え、なりたい自分を追求する積極的な生き方に魅力を感じるよう、しっかりと働きかけていきたい。
 結びに、母校である砥部中学校において、豊かな体験活動を通して、生徒が夢と希望を抱き、生徒一人一人が育つ学校づくりに、更に努力していきたい。