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近年、生活が都市型へと変化したり、少子高齢化が進むなど、子どもを取り巻く環境が大きく変化しています。そんな中、愛媛県教育委員会が平成22年度に、県内の幼稚園から高校生までのお子さんを持つ、3,200名余りの保護者の方に実施したアンケートによりますと、
○約77%の方がご自身の教育力に自信が持てず、
○約41%の方が子育てについて、何らかの負担感を抱えている
という結果が浮き彫りになりました。
このため、県教育委員会では、子どもの教育、あるいは子育てというものを、保護者や学校のみの責任とするのではなく、大人社会全体の課題としてとらえ、学校、家庭及び地域住民等がそれぞれの役割と責任を自覚しつつ、地域全体で教育に取り組む体制づくりを目指す必要があると考えています。
愛媛県教育委員会では、このような課題に応えるために、本年度新規事業として、学校・家庭・地域連携推進事業を実施し、市町を実施主体となった事業として、地域社会全体で子どもたちの健やかな育ちを図る取り組みを行っています。
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【学校・家庭・地域連携推進事業の取組①】
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地域住民がボランティアとして学校の教育活動を支援します。
・四国中央市(2)・宇和島市(1)・伊方町(1)・松野町(1)・愛南町(5) |
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○具体的な活動 |
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・授業等の学習補助 ・教職員の業務補助 ・部活動指導補助 ・学校行事支援
・学校環境整備 ・登下校の見守り活動 ・読み聞かせ等
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<宇和島市の活動例> |
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学習支援活動
(読み聞かせ 三間小学校) |
学習支援活動
(田植え 二名小学校) |
環境整備
(校庭の剪定・草刈 二名小学校) |
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※活動の流れ |
地域コーディネーターが重要です! |
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【学校・家庭・地域連携推進事業の取組②】 |
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保護者への学習機会や情報の提供、さらに家庭教育に関する相談への助言等を行い、身近な地域における家庭教育支援の基盤づくりに努めます。
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・宇和島市
・大洲市
・伊予市
・四国中央市
・西予市
・愛南町 計:6市町
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【活動事例①:子育て学習会の開催(22年度 伊予チーム)】 |
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(1) 場所 ぐんちゅう保育所
(2) 日時 平成22年6月2日水曜日 10時から11時30分
(3) 概要
○テーマ 「子育てを楽しもう」 保護者70名が参加
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講話で、「心にゆとりをもって子どもを見ていこう。」と話しかけた後、6つのグループに分かれて指導者を囲み、提示された課題「お店でほしいものがあり、買ってくれと駄々をこねている。その時あなたはどうするか。」等について話し合いました。
話が弾み情報交換を通して互いに学びあうことができました。
また、親同士の関わりを深めるきっかけにもなりました。
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【活動事例②:広報紙の発行(22年度 宇和島チーム)】
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広報紙「おおきくなぁれ」(8500部)を、年4回作成し、各保育園、幼稚園、小学校、中学校、公民館など、約100カ所へ家庭数で配布しました。学習会に参加できなかった保護者にも、広報紙で情報を提供することで活動に対する認知をしていただきました。 |
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相談対応の実績を、グラフでお知らせします。 |
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【主な相談内容】
○ |
幼児期・小学校低学年期の子どもの保護者 |
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指しゃぶり、チック症等の身体面、祖父母との関係、夫婦の教育観の相違、食育、生活習慣等 |
○ |
小学校高学年期・中学生の子どもの保護者 |
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友人関係、学習習慣、習いごと、先輩・後輩との関係、非行対策、ケータイ・インターネットの使用、進学等 |
○ |
高校生の子どもの保護者 |
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ケータイ・インターネットの使用、友人関係、親子関係の乖離、進学、進学に伴う経済的不安等 |
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【相談対応スタッフ】
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相談対応にあたるスタッフは、臨床心理士・元教員・元保育士・子育てサポーターリーダー(※)などであり、保護者から個別に具体的な悩み等をおうかがいし、助言や専門機関の紹介などの支援を行います。 |
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※子育てサポーターリーダーとは
愛媛県家庭教育推進協議会と愛媛県教育委員会が、長年にわたって子育て支援や教育活動に携わってこられた方に対し専門講座を実施し、地域の子育て支援の指導者として認定した方々です。
これまでに誕生した、「子育てサポーターリーダー」の方々については、生涯学習課のホームページ内「子育てサポーターリーダー」のページで紹介しております。 |
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子育ての悩みは、それぞれのご家庭の実情によってさまざまであり、解決が難しいことも多いとは思いますが、話を聞いてもらうだけでも、気持ちが安らいだり、新たな視点が浮かんだりするものです。 |
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【学校・家庭・地域連携推進事業の取組③】
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安全安心な子どもの活動拠点(居場所)を設け、学習活動やスポーツ活動、体験活動や交流活動等の活動を提供します。
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・今治市 ・宇和島市 ・新居浜市 ・西条市 ・大洲市
・伊予市 ・四国中央市 ・東温市 ・久万高原町 ・松前町
・内子町 ・愛南町 計:12市町
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○具体的な活動(H22年度の活動より) |
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工作教室 ちょうちんを作ろう |
キャンプ恒例 ドラム缶風呂 |
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地域の伝統行事 おたのもさん |
宿題教室 |
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外国人を招いての国際理解の活動 |
久万高原消防署のレスキュー体験 |
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電気・エネルギーについて学ぼう |
めだかさがし |
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など、各地域では平日の放課後や週末、長期休業中などに、地域のいろいろな方が関わり、子どもたちと様々な体験や交流活動等を実施しています。
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おわりに |
子どもは、社会全体の宝です。家庭、学校、地域、行政等が一体となって、「私の子ども」ではなく「私たちの子ども」という意識を広げ、「社会みんなで子どもたちの健やかな育ちを目指していく」という基盤づくりが、今求められています。
皆様方も、ここに挙げさせていただいたような各種施策に、是非ご参加ください。 |
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1 本県における地域学普及推進のためのこれまでの取組 |
県では平成3年度から生涯学習の一環として、県内の様々な地域の伝統や貴重な生活文化、産業などを調べて「愛媛らしさ」を発見したり、再確認するための地域学(愛媛学)に取り組んでおり、特に平成15年度からは「愛媛県生涯学習推進計画」の重点施策の一つに「地域学の推進」を掲げ、県内各地の地域資源の調査研究を展開してきました。その成果は、報告書にまとめて図書館や高等学校等へ配布したり、公民館などからの要望による出前講座を実施するなどにより、広く県民へ普及してきました。
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2 「ふるさと愛媛学」普及推進事業とは |
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平成23年度からは、新たな「愛媛県生涯学習推進計画」の基本施策の一つである「自立した個人をはぐくみ地域アイデンティティを高める地域学の推進」に基づき、地域文化を次世代に継承してこれらの地域資源を特色ある地域づくりに生かすため、県主体の活動から住民や市町が主体となって活動する愛媛学へと発展させた「ふるさと愛媛学」普及推進事業に取り組むこととしました。 |
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この事業では、住民のみなさんや市町と連携・協働し、次の三つの活動に取り組みます。
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地元の貴重な地域資源をよく知る住民を対象に、調査方法を身に付けるための講座を実施し、サポーターとして地域調査に参加していただき、聞き取り調査や資料収集を一緒に行います。そして、その調査結果をまとめ、報告書の作成、学習会や発表会の開催等により、その成果を調査対象地域の住民はもとより広く県民に還元することとしています。また、これまでの地域学の成果を県内に普及するために、市町や団体への出前講座や高校生向けの出前授業を開催します。 |
(2)「えひめの記憶」編さん活動
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調査研究の資料をはじめ、「ふるさと愛媛学」に関連した県や市町刊行物を集約して検索機能を備えたデータベース「えひめの記憶」を構築し、インターネットで公開します。
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県内の博物館や図書館、教育機関等とともに「ふるさと愛媛学」推進のためのネットワークを構築し、学習資源の有効活用に努め、平成24年度から統一テーマによる共同企画を開催するなどして県民に対する学習機会の提供を促進します。
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3 活動内容 |
(1)「ふるさと愛媛学」調査研究活動 |
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住民の方々と市町や県が連携・協働し、聞き取り調査や文献調査、資料収集、写真撮影等によって地域の伝統や生活文化、産業等に関する資料を掘り起こし、その内容や背景、意義等について調査研究を行います。
そして、その成果を報告書の作成・学習会や発表会の開催によって、地域の活性化やまちづくりなどに活用するとともに、インターネット上で公開し県内に普及します。
今年度は、伊予市と伊方町を対象地として調査研究を進めています。 |
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調査対象市町の住民の方々や地域学に関心のある方々を対象に、調査対象市町の地域文化に関する講演や地域学の調査研究方法等に関する講義・演習等を行い「ふるさと○○学(○○には市町名や地区名が入ります。)」構築に積極的に参画し継続的に活動する学習者(「ふるさと○○学」サポーター)を養成します。今年度は伊予市と伊方町をそれぞれ会場にして、各3回の講座を開催します。 |
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ア 《伊予市会場》
日時 平成23年6月11日・土曜日 9時30分から12時30分
場所 伊予市中央公民館
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講演 「伊予市の風土と近代の伝統産業」
~生活の記憶を記録に~
講師 伊予市文化整理指導員 沖野新一 氏
年中行事や民具の違いを通して、伊予市にはまだまだ多くの研究材料があること、それを今、記憶している方から聞きだし、整理し記録として後世に残していくことの大切さを話されました。
そして、実物の民具を提示しながら、同じような民具や年中行事も地域によってさまざまな違いがあることをわかりやすく説明されながら、先人達の苦労や業績を紹介していただきました。 |
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講義・演習1
「地域学の魅力と地域調査のすすめ」
講師 県生涯学習課研究科 職員
地域調査をはじめるにあたり、地域の生活や文化、産業等を調べること(地域学)の楽しさや必要性を説明しました。
また、伊予市の町並みや県生涯学習センター周辺の建造物等を紹介しながら、地域を歩き・見る・知ることの大切さについて講義しました。
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イ 《伊方町会場》
日時 平成23年6月18日・土曜日 9時30分から12時30分
場所 伊方町生涯学習センター
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講演 「宇和海のイワシ網漁と民俗」
講師 宇和島市立吉田中学校教諭 宮本春樹 氏
段々畑とイワシ網漁についてわかりやすくお話いただきました。一見関係のない別々の産業のように思えましたが、イワシ網漁で得た収入により段々畑を整備拡大していったことや、沿岸漁業から沖合漁業に変化し、そして養殖業に移っていく経緯を長年の研究調査から得た資料から、丁寧に説明していただきました。
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講義・演習1
「地域学の魅力と地域調査のすすめ」
講師 県生涯学習課研究科 職員
伊方町の町並みを探索したことを盛り込みながら、伊予市会場での講義と同様の内容を説明しました。 |
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地域や団体の要望により、生涯学習課研究科の職員が出向いて「ふるさと愛媛学」出前講座を実施します。 |
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平成23年度「ふるさと愛媛学」出前講座のテーマ一覧表 |
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1
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えひめ、女性の生活誌 -むらで働く、まちで働く-
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2
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えひめ、女性の生活誌 -地域を支える-
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3
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えひめ、昭和の街かど -くらしを支える仕事-
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4
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えひめ、昭和の街かど
-今治市波止浜、伊予市上灘、愛南町平城-
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5
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昭和の日本と愛媛のあゆみ
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6
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地域学のすすめ
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7
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写真から読み解く地域の変容
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8
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地図や絵図から地域を読み解く
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9
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古文書・記録からわかる地域のありさま
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高等学校等の要望により、生涯学習課研究科の職員が出向いて「ふるさと愛媛学」出前授業を実施します。 |
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実 施 日
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学 校 名
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平成23年7月6日 (水)
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伊予高等学校
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平成23年7月13日(水)
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小田高等学校
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平成23年9月9日 (金)
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川之石高等学校
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平成23年9月13日(火)
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済美平成中等教育学校
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平成23年9月16日(金)
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八幡浜高等学校
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演題 「安政大地震と郡中の人々」
講師 県生涯学習課研究科 職員
防災や危機管理において関心の高い江戸時代の大地震に関する地元伊予市の古文書を読み解き、大地震の後、地域の先人がどう行動したか、プロジェクターを活用しながら、高校生に地域の魅力や危機管理の重要性を、授業を通じて伝えました。
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(2)「えひめの記憶」編さん活動 |
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県内各地の地域に根ざした生活や文化、産業等の貴重な記録や情報(文献、記録資料、図像資料、口述資料等)を、県民で共有し継承する「記憶」(「えひめの記憶」)ととらえ、調査研究の資料をはじめ、地域学に関連した県や市町の刊行物をデジタル化し、情報を蓄積していきます。
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現在、県生涯学習センターのホームページ上で公開しているデータベース「えひめ地域学百科」に、地域学に関連した県や市町の刊行物を加え、検索機能を備えたデータベース「えひめの記憶」として、県生涯学習センターのホームページ上に構築しインターネット上で公開していきます。
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これまでの調査報告書については、愛媛県生涯学習センターのホームページの「えひめ地域学百科(データベース)」のアイコンをクリックし、「えひめ地域学キーワード検索」のページから検索することができます。
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(3)「ふるさと愛媛学」ネットワーク活動 |
県内の市町教育委員会、博物館、図書館、学校、公民館及び地域研究団体等に呼びかけてネットワークを形成し、ふるさと愛媛の生活や文化、産業等について学習する地域学を普及推進し、地域学に関連した学習資源の活用を図るとともに、県民への学習機会の提供を促進することを目的として活動していきます。
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地域学を普及推進するための会議を開催し、地域学に関する講演会や県と市の共同事業等の事例紹介、県社会教育施設・市町・大学などの横断的な情報交換等を実施します。また、県や市町が実施する地域学関連事業の広報支援を行い、「ふるさと○○学」の呼称普及に努めます。
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②ネットワーク共同企画「『えひめの記憶』をみる・はなす・きく」の実施 |
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県や市町、博物館等で「えひめの記憶」に関する共通テーマを設定し、平成24年度から、各機関や各施設等の特色に応じて、テーマに関連した展示会やシンポジウム、講演会等を実施します。
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4 終わりに |
県民や市町と連携・協働して実施する「ふるさと愛媛学」普及推進事業をとおして、後世に伝えるべき貴重な地域資源の掘り起こしを一層進め、県民の郷土愛を醸成し個性的な愛媛づくりに努めるとともに、地域活性化に寄与することを目指します。
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●会期/平成23年7月30日 土曜日から8月31日 水曜日 |
●休館日/ |
月曜日
ただし8月1日・月曜日は開館し、翌火曜日が休館 |
●時間/9時40分から18時(入場は17時30分まで) |
●観覧料/ |
一般:300円(240円)、高大生:200円(160円)、小中生:無料
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( )内は20名以上の団体料金 |
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満65歳以上の方は無料です。
生年月日が分かるものをご提示ください。 |
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障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料です。 |
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企画展観覧券の半券でご覧いただけます。 |
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1 発端 |
県美術館の支援団体として、県美術館友の会があります。
県美術館を拠点に、広く芸術に親しむ機会を提供し、県美術館の活動及び運営を支援し協力することを目的としています。県美術館友の会は約1,500名の会員で構成されており、会費を納めていただくことで、会員は展覧会が無料で鑑賞できたり、県美術館友の会主催の美術教室や研修旅行に参加できたりし、芸術に親しむ機会を得ることができます。そういった事業へ参加いただくことで、美術への関心を深め、県美術館の支援に貢献いただいています。
県美術館では11,000点を超える作品を所蔵し、展示替えをしながら公開しています。しかし、チラシ、ポスターを作成する予算もなく、広報が行き届かず、所蔵品展=いつも変わらない展示イメージが拭えないのが現状です。そこで、経済面で県美術館単独では新たな展開が見込めない所蔵品の展示において、県美術館友の会との共催による実施案が浮上しました。県美術館友の会に資金等の協力を得ることで、学芸員の調査研究による所蔵品を活用した企画展を開催し、県美術館友の会のネットワークや印刷物により広報を強化し、県美術館の財産である所蔵品への理解を広げ、より親しんでいただく機会を提供することができます。また、県美術館にとってプラスになるだけではなく、その新たな支援の一環として、県美術館の所蔵品を活用した展示事業における援助、関わりを通して、県美術館に対する会員の意識を高めるとともに、新規会員への獲得につながる効果も期待できます。
県美術館と県美術館友の会が共催し展覧会を開催するという提案は、6月の県美術館友の会の運営委員総会において承諾が得られ、実現することになりました。この新たな形態による展覧会の実施は、県美術館と県美術館友の会との新たな関係を築く試みとなります。
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2 趣旨 |
さて、このようにして県美術館友の会との共催による企画展を考えることになりましたが、その条件、いわば「お題」としては、館蔵品の「お蔵出し」による「名作展」ということでした。
これは簡単なように見えるかもしれませんが、実際には意外に難しいお題です。
試みに『広辞苑』(当館の資料庫にあるのは一つ古い第五版)を引いてみれば、「くらだし」という語は【庫出し・蔵出し】と書かれ、その意味は「倉庫に寄託した貨物を引き出すこと」、「貯蔵してあった酒などの、蔵から出したばかりのもの」、「金庫に入れてある金銭を引き出すこと」等と説明されています。県美術館では、県民の財産としての館蔵の美術品及び関連資料を適切に保存して永く後世に伝えてゆくため、各美術品等が温湿度の変化や照明に曝される時間をなるべく年間約2ヶ月以内に制限する必要があることから、館蔵品を展示する「常設展示室」においても年間を通して数回の展示替を行って作品を休める期間を確保し、展示していない期間の作品は全て館内の収蔵庫で厳重に保管しています。
したがって、県美術館の館蔵品を展示すること(いわゆる常設展示)は常に全て「蔵出し」に他ならないということになります。
館蔵品の中から一定の主題に合った作品を選んで展示するということは「企画展」の一つの形態として全国どこの美術館や博物館でも行われていることで、もちろん県美術館でも常設展示室において常時開催しています(ちなみに県美術館では大規模な特別展覧会を「企画展」と呼んでいるので、常設展示室における館蔵品による小企画展を「館蔵品展」や「特集展示」等と称して、大規模企画展とは区別しています)。
要するに、館蔵品の「お蔵出し」による「名作展」というのは結局のところは普段の「常設展」と全く同じ意味しか表さないことになるのですが、それを「羊頭狗肉」等と感じられる来館者も出てくるかもしれないし、何よりも資金を提供してくださる県美術館友の会が納得してくれるかどうかです。
そこで考え付くのは、本当の意味で「蔵出し」と呼べるような作品、換言すれば、平成10年の新装開館以来この県美術館でほとんど又は全く展示する機会もなく収蔵庫に眠り続けてきた作品を見つけ出して公開してはどうかということです。
そこで本当の意味で「蔵出し」と呼べるような隠れた名作が何かないかと考えたとき、一部の学芸員から直ぐに提案されたのは、白川義員の写真の大作群と、江戸時代の甲冑でした。
愛媛県の川之江(現在の四国中央市)に生まれた白川義員は、大学を卒業して間もない昭和30年代から早くも山岳写真家として頭角を現し、旧愛媛県立美術館の開設の頃には早くも、日本を代表する写真家として高い評価を受けました。そんな彼が、昭和49年から昭和53年までの5年間にわたり計12点もの大作群を県美術館へ寄贈してくださっていたのです。
こんなにも素晴らしい写真コレクションがほとんど活用されてこなかったのは実に不思議であると思われる方々も多いでしょう。実をいえば、当事者である県美術館の学芸員にとっても不思議であり、活用してこなかった理由については偶然の結果としか言いようがありません。強いていえば、これまでの館蔵品展示はあまりにも絵画や現代の立体造形(いわゆる現代アート)に偏っていたということでしょう。ともかくも、愛媛県出身のこの写真界の英雄の比較的初期の作品群をこれから活用してゆく手始めとして、今回の「企画展」は絶好の機会になり得るのではないかと考えました。
他方、県美術館に甲冑や武具が収蔵されているという事実には、流石に驚かれる方も多くおられることでしょう。
甲冑は2領あり、いずれも江戸時代のもの。内1領は上級武士でなければ所有できなかったような高級品で、久留島家伝来と伝えられる江戸時代中期のもの。もう1領は松山藩士の家に伝来した歩行(徒士)級のもので、江戸時代後期の作と推定されています。前者は、昭和47年の8月15日から10月6日まで県美術館で開催された「伊予水軍展」に出品されたのを機に、翌年2月に寄贈されたものであることが判っています。松山藩士の家に伝来した後者はその展覧会に出品されたものではないようですが、寄贈の時期は昭和48年3月であり、やはり「伊予水軍展」で甲冑武具を展示したことからの何らかの波及効果があったのではなかろうかと想像されます。
興味深いのは、後者の甲冑を所有していた家が松本山月の三男を祖とした家であると考証できることです。松本山月は江戸時代前期に松山藩に仕えた絵師で、松本山雪に絵を学び、養子となって松本家を継ぎました。松本山雪については、県美術館も《製茶風俗図屏風》(愛媛県指定文化財)をはじめ作品を収蔵し、顕彰に努めていますから、いわば、先祖の絵画と子孫の甲冑が思いもかけず県美術館で再会を果たしたことになるでしょう。
このような、作品同士の意外な出会いということも美術館や博物館におけるコレクションの妙味であり、「お蔵出し」と銘打つ企画展で紹介するには実にふさわしいと言えるでしょう。
県美術館の収蔵庫の中には、大いに活用して然るべきであるにもかかわらず、これまでは活用の機会を見なかった作品もあります。白川義員の作品群はその最も顕著な例であり、2領の甲冑もそうでしょう。
館蔵品の「お蔵出し」と銘打つ今回の企画展では、そうした作品群を存分に活用することで県美術館コレクションの意外な多様性、多層性を見直し、広く紹介してゆくことを考え、いくつかの章(「物語」)に分けて作品を選定し、展示室内の配列を検討しました。
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(左より)伊藤五百亀《旦》、
下村為山《月下宿鳥図》、《紫絲威胴丸》
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3 向後 |
今回、県美術館友の会に経費を負担していただいて館蔵品展のポスター及びチラシを作成できることは、県美術館のコレクションの幅の広さ、意外な多様性や多層性を多くの方々に知っていただける機会になるものと期待しています。
この企画展は県美術館1階の企画展示室において開催しますが、同時期には2階の常設展示室において「平成22年度新収蔵品展」を開催し、寺田小太郎コレクションの多彩な現代絵画作品群をはじめ、正岡子規の陸羯南宛書翰や下村為山、八木彩霞、長谷川竹友等の絵画を含む坪内寿夫コレクション、さらには江戸時代の松本山雪や加藤文麗、遠藤広実、大内蘚圃、沖冠岳、天野方壺等の書画をも多数展示しているので、県美術館の美術品収集が現在も進行し活動していることを知っていただく絶好の機会になり得るとも期待しています。
この展示事業を機に、県美術館友の会との連携をますます強化してゆくとともに、館蔵品を活用した展示の可能性をさらに広げていきたいと考えています。
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