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皆さんは、「インクルーシブ教育システム」という言葉をご存知ですか。
平成26年1月、日本は「障害者の権利に関する条約」を批准しました。この条約の中で、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けるというインクルーシブ教育システムの理念が示されています。全ての子どもが互いに個性や違いを認め合い、尊重し合う中で、共に学ぶ学校づくりが求められています。
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【参考】平成18年、国際連合総会で障害者の権利に関する条約が採択されました。我が国は、翌年に署名し、条約批准に向け、国内の障害者制度に関する法令や制度の整備を進めてきました。そして、平成26年1月に条約批准に至りました。その間、教育については、平成23年に障害者基本法の改正が行われ、障害のある子どもとない子どもが共に教育を受けられるよう可能な限り配慮することが規定されるなど、インクルーシブ教育システムの基本的な在り方が示されました。 |
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愛媛県教育委員会では、平成25年度から「インクルーシブ教育システム構築事業」として、次の事業に取り組んでいます。 |
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『インクルーシブ教育システム構築モデル地域(交流及び共同学習)事業』 |
特別支援学校の子どもたちが、自分の住んでいる地域にある小・中学校の子どもたちと交流し、共同学習を行います。また、交流支援アドバイザーが、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学習していく上で必要な知識、技術、配慮等について、担当教諭にアドバイスを行い、その効果等を検証するとともに、ノウハウの蓄積に努めています。
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『特別支援学校のセンター的機能充実事業』 |
県内の特別支援学校は、その専門性を生かし、地域の小・中学校等に在籍する障害のある児童生徒に関する教育相談等に当たるなど、地域の特別支援教育の中核的な役割を担っています。
この事業は、その特別支援学校において、外部の専門家を活用した研修や障害特性に応じたICT(情報通信技術)を活用した授業に取り組むことにより、特別支援学校教員の専門性や資質の向上を図るとともに、地域内の小・中学校等に対する支援の充実を図ろうとするものです。
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それでは、平成25年度の取組について紹介します。 |
1 「インクルーシブ教育システム構築モデル地域(交流及び共同学習)事業」 |
【宇和特別支援学校(知的障害)の実践事例】 |
小学部5年生の児童Aさんは、1年生の時から年間3回、教科学習や給食の場面で居住地の小学校の児童と共に活動しています。
今回、交流及び共同学習を行うに当たり、交流支援アドバイザーからは、視覚的な手掛かりを用意して児童同士の関わりを意識させること、小学校の児童には、動作の始まりに対象児童の背中を押して合図するなど言葉以外のコミュニケーション手段を取り入れるようにしてはどうかとの助言を受けました。音楽の授業では、周囲の児童の関わりにより、リーダーのたたくリズムに合わせて太鼓をたたいたり、ペアの児童の写真カードを示すことで、友達を意識しながら準備や後片付けを一緒に行ったりと、小学校の児童と集団の活動を楽しんで行うことができました。
また、対象児童の成長のみならず、小学校の児童にとっても自らが関わり方を考えることで、思いやりの心を育むよい機会となっています。
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みんなで和太鼓たたくのって楽しいな! |
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【宇和特別支援学校(聴覚障害)の実践事例】 |
小学部6年生の児童Bさんは、来年度地域の中学校への進学を希望しています。中学校進学を想定し、小学校での交流及び共同学習では、本人の願いである「友達づくり、学習での活躍、積極性」を目標として設定し、そのための配慮や支援について検討を行いました。交流支援アドバイザーからは、協力校の6年生児童に対して、障害理解の授業を行うこと、対象児童自らが周りに理解してもらえるよう働きかける場面を設定するようにとの助言を受けました。
実際の活動では、クラスの友達に対して、覚えてもらいたい手話の紹介や自分の障害、将来の夢について発表を行ったり、2回目の交流及び共同学習時に、1回目の活動を踏まえ、友達にもう少しお願いしたいことや自分でがんばることをまとめたビデオレターを事前に届けたりしました。
交流及び共同学習を通して、周りの児童が手話を使って対象児童に関わる状況が増え、本人自身もみんなと共に学ぶために必要なことや改善点を意識するようになり、さらには障害をより深く認識するなど自己理解も進みました。今では、友達との会話も増え、中学校進学への不安が和らいだようです。
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グループ学習で互いの考えを出し合っています! |
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2 「特別支援学校のセンター的機能充実事業」 |
① 特別支援学校の専門性の強化 |
【みなら特別支援学校松山城北分校(知的障害)の実践事例】 |
特別な支援が必要な子どもの中には、対人関係や学習面等におけるちょっとしたつまずきがきっかけとなり、いじめや不登校等につながってしまう場合も見られます。そこで本校では、臨床心理士を講師に迎え、生徒の自己肯定感を高める支援やカウンセリングについての基本的な捉え方を学ぶための研修会を実施しました。
当日は、中学校や高等学校からも参加があり、具体的事例の検討や模擬体験を通して、生徒の問題行動の背景にある心の問題の捉え方と対応方法、問題行動があった生徒への話し方、組織としての対応と教職員一人一人の役割分担の重要性等について、専門的な視点で助言をいただきました。現在、本校では今回の研修を生かし、生徒への対応にはチームを組み、その中で役割を細分化するなど、生徒の心の問題に寄り添った組織的な対応を図るようにしています。
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臨床心理士による教職員研修の様子 |
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【今治特別支援学校(知的障害)の実践事例】 |
言語聴覚士を講師に招き、「コミュニケーションの指導」と「摂食指導」について、研修を行いました。
「コミュニケーションの指導」では、前言語期コミュニケーションからの支援の必要性、カードの使用方法や文字チップの活用例、発音の違いに気付く方法や練習等、「生きた言葉を使うこと」を目標に音の視覚化やゲームを取り入れた訓練方法などについて、具体的な助言を受けました。
「摂食指導」については、摂食場面以外でのトレーニングの必要性や噛む練習に適した食物の大きさなどについて学びました。また、噛む練習としてガムをガーゼで包んで使ったり、歯ブラシの背を使ってほほの裏を刺激したりすることや、歌いながら楽しくできるトレーニングの一例も教えていただき、今後の支援方法の手掛かりを得ることができました。
研修後は、朝の会で生きた言語を活用していくための「口の体操」を行ったり、噛むことを意識させるために意図的な大きさに刻んだ給食に変えたりするなど、早速校内で実践活動に取り組んでいます。
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言語聴覚士による教職員研修の様子 |
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② 地域内の小・中学校等への支援 |
【松山聾学校(聴覚障害)の実践事例】 |
聴覚障害のある子どもの療育や教育に関係する機関の連携を深めるために、ネットワーク会議を行っています。今年度の会議では、就学後の聴覚障害に配慮した学習支援について、県下の小・中学校難聴特別支援学級の担任、聴覚障害特別支援学校の特別支援教育コーディネーター、早期教育を担う愛媛県視聴覚福祉センターの担当者等が集まって、実践報告や情報交換を行いました。
今回、アドバイザーとして大学教授に参加いただき、「難聴のある子どもの言語指導」のテーマで講演もしていただきました。
小・中学校の参加者からは、これまでの指導方法の見直しができ、読み・書きを大切にした言語指導や多くの感覚を活用しながら行う音読方法など、今回研修した指導方法を学校で実践していきたいとの感想が多く寄せられました。
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小・中学校関係者とのネットワーク会議の様子 |
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【しげのぶ特別支援学校(肢体不自由)の実践事例】 |
通常の学級に在籍する肢体不自由児への配慮について、小学校から相談があり、大学関係者に同行いただいて、訪問支援を行いました。
まず、授業参観をして、身体の動きや学習の様子、集団での活動状況等を観察し、関係者が集まった検討会では、身体の変化に伴って今後必要になると思われる配慮(電動車椅子の活用、タブレット端末の活用、教科書デジタルデータの利用、居宅介護等福祉サービスの利用)について、助言を行いました。
また、講演では、インクルーシブ教育や「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の解説の外、支援機器を早期に導入することでコミュニケーション力や問題解決能力の向上につながり、自己肯定感も向上できるという話があり、参加者からは、障害のある子どもたちへの指導・支援の認識が変わったとの感想が多く聞かれました。この訪問支援を通して、子どもたちの学校生活の目的を再検討する機会となったようです。
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小学校への訪問支援での大学関係者による講演の様子 |
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③ 障害特性に応じたICTの活用 |
【松山盲学校(視覚障害)の実践事例】 |
全盲の児童が国語の授業で言葉の意味調べをしようとすると、これまでは膨大な点字辞書の中から探さなければならず、時間と労力がかかってしまい、意欲がそがれることがありました。そこで、タブレット端末のテキスト自動読み上げ機能を利用し、言葉の入力や調べた内容を音声で確認できるようにしました。それにより、児童は1~2分程度で言葉の意味を調べることができるようになり、さらに、分からないことは自ら積極的に調べるようになるなど、学習への意欲、理解力の向上につながりました。
また、児童は画面を視覚的に確認できないことから、当初はタブレット端末の活用に消極的でしたが、写真を撮ると被写体について音声で教えるアプリを使うことで、外界の様々なものへの興味が沸き、タブレット端末を積極的に扱うようになりました。このアプリは、対象物にカメラを向けてタップするだけで、色や形、物の名前、表情等を教えてくれるもので、児童は自分で操作できる喜びを感じています。
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タブレット端末を使って言葉の意味を調べよう! |
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【みなら特別支援学校(知的障害)の実践事例】 |
小学校の通級指導教室担当者から、発達障害である児童への障害特性を生かしたICTの活用について、相談を受けました。そこで、大学関係者に同行いただいて当該小学校を訪問し、対象児童の指導や支援について検討を行い、大学関係者から助言のあったタブレット端末を活用した授業実践を進めることになりました。
その結果、書くことを苦手とする児童が、タブレット端末の音声変換アプリを使って日記を書くことにより、自分の思いや考えを豊かに表現するようになり、通級指導教室担当者からは、タブレット端末の活用により障害による困難さを補う指導ができ、児童のよさを生かすことにつながることを実感した、指導観が変わったという感想が寄せられました。
また、当該小学校の全教職員を対象にした研修では、実際にタブレット端末を触りながら、子どもの特性や育てたい力に応じてICT活用の必要性を見極めることが大切であることを学びました。
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タブレット端末ですらすら日記が書けた! |
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【新居浜特別支援学校(知的障害)の実践事例】 |
児童生徒が主体的に学習する力や表現力を向上させる一つの方策として、タブレット端末を活用した教育実践に取り組んでいます。タブレット端末機が本校に導入された当初は、教員主導で主に学習教材として使用していましたが、大学関係者を講師に招いた研修で、「読み書きや人との関わりが苦手であるといった困難さを補うための道具としてタブレット端末を使用するなど、児童生徒の個性や才能を生かす教育支援としてICT活用に取り組むことが重要である」との指導があり、「児童生徒の主体的な学習ツール」としての活用を図っていくことにしました。
写真は、人との関わりが苦手な児童が、タブレット端末のビデオ機能を使って友達と教員を撮影している様子です。自らがシャッターボタンの押し方を習得し、さらに撮影した動画を友達と共有するなど、主体的な活動が見受けられました。
今後は、学習活動の振り返りや意思の伝達、ルールやスキルの獲得等、様々な場面において児童生徒がタブレット端末を便利な道具として活用していけるような授業実践に取り組んでいく予定です。
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友達と先生を撮影中! |
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以上のように、特別支援学校に求められる専門性を踏まえ、各学校において特色ある実践を行っています。本事業を推進していくことにより、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶために必要な配慮や支援を検討するとともに、全ての教職員の特別支援教育に関する資質向上につなげていきたいと考えています。 |