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自分も友達も大切にし、自他の人権を守るために主体的に行動する
子どもの育成 ~気づき・考え・行動する子~(大洲市立粟津小学校)
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1 はじめに |
本校は、大洲市中心部から約8㎞の肱川下流域、市の北西部に位置し、学級数7、児童数88名の小規模校です。「ふるさとを愛し、あかるくやさしくたくましい粟津の子を育てる」という教育目標の下、全校児童のつながりや互いの助け合いを求める諸活動に取り組んでいます。本校では、人権教育の指導方法等のあり方について[第三次とりまとめ]の趣旨を踏まえ、人権に関する知的理解を深めるとともに、様々な交流体験を意図的に取り入れる中で、互いのよさを認め合える仲間づくりを促進し、それを支えるコミュニケーション能力や人間関係を調整する能力の向上も図りたいと考え、実践をしてきました。その一部を御紹介いたします。
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2 人権が尊重される学習の推進 |
(1) 人権・同和教育年間指導計画の改善 |
まず、本校の実態を把握するために、児童と保護者対象にアンケートを行いました。また、全ての教育活動において人権・同和教育に取り組むため、各教科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動の内容を盛り込むとともに、学校行事との関連についても見直しを行い、人権・同和教育の年間計画を作成しました。その際、五つの視点(生命、人権、仲間、地域、勤労)を設定し、単元や教材を選定しました。
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(2) 人権意識を高める授業改善 |
生命尊重の授業では、地域の獣医師をゲストティーチャーとして招き、直接話をしていただくなど、児童がかけがえのない生命を尊び感動をもって理解できるように授業構成を工夫しました。
人権の歴史や現状を学ぶ授業では、人権に関する歴史を学び、正義の実現に向かって活動しようとする意欲や態度を育てるための学習を行いました。主に6年生において行い、社会科、総合的な学習の時間、道徳、学級活動で多面的に学び、人権についての知的理解を深めました。6年生では、渋染一揆を取り上げ、差別解消に向けて立ち上がった人々の思いに触れる授業を行いました。
地域の人々と積極的に関わる授業では、校外学習を積極的に取り入れるとともに、地域の方を学校にお招きして、直接御指導いただく機会を増やし、自分たちの地域の自然や文化等を体験的に学んでいます。特に、総合的な学習の時間では、地域に受け継がれている和太鼓演奏を体験したり、地域の福祉施設と交流したりする中で、地域に貢献しようとする気持ちを育むことができました。
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第1学年 生活科の学習 |
第3学年 総合的な学習の時間 |
第6学年 道徳の学習 |
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(3) 伝え合う力を伸ばすための取組 |
言語環境の整備では、「話す・聞く」力を育てるために、教室の前面に「聞き名人・話し名人」を掲示しています。また、朝の会では、学年ごとにテーマを決めて輪番でスピーチをし、発表後には、感想発表や教師の講評を行っています。講評の中で、発表した児童や聞いていた児童のよいところをほめることにより、児童は自信をもって発表するようになりました。さらに、自分の考えを伝えるための語彙が広がっていくように、「使えるようにしたい言葉カード」を上・下学年と発達段階に応じて作成し、児童一人一人に配布して活用しています。
また、地域の読み聞かせボランティアの方々に、学期に2~3回、テーマを設定して、発達段階に応じた本の読み聞かせをしていただいています。様々なジャンルの本を読んでいただくので、読書の幅を広げるきっかけとなっています。児童は、自分たちのために準備し、来てくださることに感謝の気持ちをもち、「また来てほしい」と次回を心待ちにしています。
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3 伝え合い認め合う仲間づくり |
(1) 「気づき・考え・実行する」青少年赤十字活動の充実 |
本校では、毎月一週間をJRC週間とし、あいさつ運動や募金活動を行っています。しかし、教師も児童もこれまでの活動を踏襲するだけになっていたため、活動のねらいを教職員間で再確認しました。そして、日常生活の中での実践活動を通して、「やさしさ」や「思いやり」の心を育てることを目的とし、自主的で自立した生活態度を養うために、「気づき・考え・実行する」という三つの態度目標を掲げて、児童の活動を進めていくことにしました。また、児童からは、全校奉仕活動や全校遊び、保健委員会の活動などをしたいという意見が出てきたので、それらの意見をもとに、業間を設定するなどして活動時間を確保したり、掲示物を工夫したりしました。 |
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読み聞かせボランティア |
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(2) 互いを認め合う集会活動 |
なかよし集会では、集会のはじめに、「今月の歌」や「今月の詩」を、全校で声を合わせて歌ったり朗読したりしています。歌や詩は、日本の四季を感じられるもの、児童の心に響くものを選んでいます。朝の会でも、各教室から歌や朗読の声が聞こえ、毎朝、みんなが同じ歌や詩を読むことで、気持ちをひとつにすることができています。毎月、校長先生に「今月の詩」の暗唱を聞いてもらうことで、児童は意欲や自信をもって取り組んでいます。 |
また、日頃お世話になっている地域の方々や指導者の方々に感謝の気持ちを表すため、「ありがとう集会」を行いました。児童は、心を込めて招待状や感謝状、出し物、プレゼント等を用意しました。出し物の準備をしていた児童の中には、「走るゲームはやめよう」「こんなクイズが喜んでもらえるかな」といったように、招待者の年齢を考えた言動も見られました。招待者の方々にも喜んでいただき、お互いの気持ちが通じ合う、とてもよい集会となりました。 |
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ありがとう集会 |
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4 家庭・地域との連携 |
1・2年生は、寿会(地域の老人会)の方に昔の遊びを教えていただきました。昔のおもちゃのおもしさや手作りのよさに気付き、人と関わり親しみを深めることを目的として、生活科の時間に昔の遊びにチャレンジしました。グループごとに、昔の遊びコーナー(はねつき、こま回し、竹とんぼ、竹馬、めんこ、お手玉)を回り、一生懸命チャレンジできたらシールを貼ってもらいます。児童は、寿会の方とコミュニケーションをとりながら昔の遊びを楽しみ、活動後、感想発表や歌のプレゼントをしたり、感謝の気持ちを込めてお礼のあいさつをしたりしました。また、寿会の方には、運動会にも来ていただき、児童と一緒に大玉ころがしに参加していただくなど、交流を続けています。
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JRC活動の一環として、毎年「手つなぎボランティア」を実施しています。異年齢集団(あいグループ)に分かれて、地域の赤十字奉仕団の方々と一緒に八多喜の町を掃除します。1時間程度の奉仕作業でしたが、ごみ拾いや草ひきなどをしていると、あっと言う間に時間が過ぎていきました。終わりの会の感想発表では、子どもたちの充実した思いをたくさん聞くことができました。また、地域をもっときれいにするために、自分たちにできることはないかという思いから、代表委員会で話合いを行いました。「ごみ箱を置いたらいい」「ごみが落ちていたら拾う」「ごみを落とさないように気を付ける」など、たくさんの意見が出ました。その中で、「ポスターを作って呼びかける」という提案があり、みんなでポスターを作って、駅前や公園などに掲示しました。 |
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手つなぎボランティア |
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5 成果と課題 |
人権が尊重される学習の推進では、人権が尊重される手立てを意識した授業を展開することで、一人一人の活躍の場面が確保され、児童は、充実感や達成感を味わい、大切にされていると感じるようになってきました。また、道徳や学級活動などで役割演技を取り入れることにより、他者の気持ちに気付いたり、同じ場面でも人によって感じ方が違うことに気付いたりすることができるようになってきました。そして、人権に関する歴史や差別の現実を様々な場面で学ぶことにより、人権の問題を自分のこととして考える児童が増えてきました。
伝え合い認め合う仲間づくりでは、異学年との関わりが増え、様々な場面で気遣いや思いやりの心をもった言動が見られるようになりました。その結果、学年を超えて互いのよさを積極的に認め合うことができるようになっています。また、学年に応じて、みんなのために自分ができることを実践しようという態度も育ってきています。
家庭・地域との連携では、協力してくださる地域の方が増え、児童と直接関わっていただく機会も多くなったことで、児童は、地域行事への関心を高め、触れ合いを大切にし、地域の一員として共に活動に取り組むようになりました。
これまで、自他の人権の大切さに「気付き・考える」子どもの育成に努めてきましたが、まだ十分とは言えないところもあります。さらに、児童の人権意識を高める活動を考え、主体的に行動できる子どもを育てていきたいと思います。 |
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生徒一人一人の人権感覚を磨き、実践力を育てる人権教育の推進
(愛媛県立大洲高等学校)
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1 はじめに |
本校は、江戸時代初期の陽明学者中江藤樹の邸宅跡が校内にあります。そのため、藤樹の唱えた「知行合一」を校風の中心とし、得られた知識が行動や実践につながらなければ、本当に知ったことにはならないと常日頃教えています。しかし、人権・同和教育に関する意識調査等を見ると、様々な人権問題などについての知的理解は深まっていると考えられますが、それが実際の生活や行動面に生かされていない場面も見られます。そこで、あらゆる教育活動を通して豊かな人権感覚を培い、自分の人権及び他者の人権を守るための実践行動力を育成するために、上記の研究主題を設定しました。
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2 研究の内容 |
次の四点について研究実践を行いました。 |
(1) 人権感覚を磨き、実践力を育てる指導方法についての研究
(2) 教職員研修
(3) 人権が尊重される教育環境づくり
(4) 保護者・地域社会への働きかけ
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3 実践例 |
研究実践の具体例をいくつか紹介します。 |
(1) 人権委員会の活動 |
ア 人権委員会夏季研修会 |
毎年、8月初旬に、うちこ福祉館で、大洲・喜多地区合同の夏季研修会を行っています。研修内容は、各校人権委員会の取組内容報告、内の子手話サークルの皆さんによる手話講座、講演、映写会、フィールドワークなど様々です。
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イ 聞き取り学習 |
2学期末に、人権委員と教職員等が、様々な方から人権問題に関する話を聞く機会を設けています。様々な人権問題等に関わってきた方に学校に来ていただき、少人数で直接話を伺うことは、講演会等に比べると、その苦労や思いがよく伝わり、生徒の人権意識を高めることができました。
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ウ 人権集会 |
毎年2月に人権集会を実施し、聞き取り学習の成果を中心に発表を行っています。21回目となるこの集会は、大洲高校の伝統的な行事として定着しています。集会では人権作文の発表をはじめ、様々な人権問題に関する研究発表や報告が行われました。 |
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夏期研修会 |
人権集会 |
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(2) 地域教材の開発 |
中江藤樹が唱えた「知行合一」の教えを全校生徒に周知するために、藤樹をモチーフにしたマスコットキャラクターを作成し、様々な機会を活用して啓発に努めています。
また、差別解消のために尽した郷土の先人近田英雄や西村兵太郎、水平社喜多郡支部等を授業で取り上げ、生徒の人権意識の高揚に努めました。
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(3) 環境づくり |
学校が少しでも安らげる場所になるように、手洗い場や中庭などを中心に、心を癒す環境づくりに取り組みました。手洗い場の鏡には、「鏡からのメッセージ」を掲示しています。鏡の向こうの世界から、励まされたり癒されたりする言葉として、誰もが日に何度か利用する手洗い場を明るい雰囲気にしようと、保健委員が空き瓶にペイントを施した手作りの花瓶とポトスなど緑の植物を設置しました。
どんなときも 君は君らしく
あなたの頑張りは きっと誰かが見てくれているから
振り向くな 前を見ろ
大丈夫 きっとうまくいく
私は私 自分を信じて
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(4) 教職員研修 |
職員会議後の時間を使って、職員の人権意識を高め、共通理解を図るために、研修会等の報告や人権・同和教育に関わる動向を連絡しています。また、ホームルーム活動前の研修会や、講演会等を通じて教職員の資質・能力の向上に努めています。
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(5) 保護者・地域・関係機関等との連携 |
教職員が、地域の研修会に参加したり、保護者や関係機関等の方々と一 緒に研究大会等に参加したりすることにより、人権教育の新たな視点や、課題を教えていただくことができました。また、公開授業や研修会を通じて、幼稚園(保育園)や小・中学校との交流を行うことができました。その成果を、発達段階に応じた人権・同和教育の推進に生かしていきたいと思います。
今後とも、保護者・地域・関係機関等との連携を深め、地域に根ざした人権・同和教育を進めていきたいと考えています。
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4 終わりに |
今回の研究実践を通して、藤樹の「知行合一」の教えが全ての教育活動の中で体現され、「自分の頭で考え、選び行動するために学ぶ」ことが、教科指導の中にも反映されてきました。また、現職教育と校内外の研修を通じて、全教職員が同和問題をはじめとする様々な人権問題に対する理解と認識を深めることができました。その成果を、ふだんの教育活動でどのように生かしていくかが今後の課題です。
本校では、授業や学校行事等を通じて、教職員や生徒相互の信頼関係を深めています。その成果が、いじめの予防や早期発見、安心安全な学校生活の実現につながるのではないかと期待されます。実践力の育成については、生徒個々によって個人差が見られますが、一人の百歩でなく、百人の一歩を目指して、今後とも全ての生徒の人権意識の高揚を目指した取組を実践していきたいと考えています。
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