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愛媛県教育委員会では、平成24年度から特別支援学校キャリア教育推進事業を実施し、企業、労働・福祉等関係機関の協力を得て、就労現場からの専門的な技術指導や助言を生かした授業改善や進路指導の充実、職場開拓等に取り組んできました(教育広報187号に掲載)。その取組の成果を生かし、平成26年度からは高等学校に在籍している発達障害等のある特別な支援を必要とする生徒のキャリア教育・就労支援の充実を図るために、本事業を実施しています。
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本事業では、新居浜市と四国中央市をモデル地域とし、県立新居浜特別支援学校、新居浜商業高等学校、川之江高等学校(定時制)をモデル校に指定して、地域の労働・福祉等関係機関との連携による就労支援体制の構築を図るために「就労支援ネットワーク会議」を設置しました。
また、就労先・職場実習先の新規開拓を行う「就労支援コーディネーター」を新居浜特別支援学校に配置しました。
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<各関係機関の主なサポート内容>
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≪川之江高等学校における取組例≫
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卒業学年のある生徒は、4月当初、将来の生活についてあまり考えたことがない様子でしたが、職場実習やキャリアカウンセリング等を通じ、将来の生活や仕事について少しずつ自分のこととして捉えられるようになり、1月には、就職が内定しました。関係機関と連携した就労支援の流れを紹介します。
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① 個別の支援会議の開催
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ハローワーク四国中央の職業相談担当者、四国中央市発達支援センター(四国中央市こども課発達支援室)の相談員、保護者、学校関係者、就労支援コーディネーターで個別の支援会議を開催し、本人・保護者の願いや現在の課題等を踏まえて「個別の教育支援計画」を作成しました。
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② 実態把握
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四国中央市発達支援センターにおける発達検査や障害者職業センターにおける職業評価を実施し、特性や適性等の実態把握を行いました。 |
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③ 職場開拓
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就労支援コーディネーターが、本人との面談や実態把握をもとに、ハローワークと連携しながら本人の希望や適性に応じた職場開拓を行い、実習を計画しました。
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④ 職場実習の実施
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秋休み中に一週間の職場実習を実施しました。卒業後の職場定着支援につなげるため、実習中に障害者就業・生活支援センターの就業支援ワーカーが実習先を訪問し、本人の特性や仕事への取り組み等を把握しました。
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⑤ キャリアカウンセリングの実施
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ジョブカフェ愛workのキャリアコンサルタントによるキャリアカウンセリングを実施しました。職業カード(OHBY CARD)を使って、職業に対する興味分野を探ったり、仕事に対する感情を共有したりしながら、自己理解を深め、進路選択を支援していきました。 |
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⑥ 移行実習の実施
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就職までに、再度、より長期の実習を実施し、本人が職場での仕事や環境に慣れるよう支援しながら、職場の方に、本人の特性や必要な支援について理解を深めていただく予定です。
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卒業後は、障害者就業・生活支援センターを中心とし、関係機関と連携しながら職場定着支援に取り組んでいきます。
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≪新居浜商業高等学校における取組例≫
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特別な支援を必要とする生徒のキャリア教育の充実を図るため、医療、福祉、行政、教育等の関係機関と連携し、就労支援に取り組みました。特別支援学校のセンター的機能を活用した特別な教育的ニーズのある生徒の理解についての教職員研修や「全員が分かる授業」を目指した授業研究、生徒の自己理解を深めるための構成的グループエンカウンターの実施などに取り組みました。そのうちいくつかの実践事例を紹介します。 |
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① 特別な支援を必要とする生徒の特性に配慮した支援の工夫
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~見通しを持つことが苦手な生徒のために~
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1時間の学習内容の流れや活動の手順などを最初に黒板に書いて提示しました。これは、生徒全体が見通しをもって学習に取り組むことにもつながり、結果として、教師の指示が必要な場面が減りました。さらに、聴覚刺激に過敏な生徒が落ち着いて学習に取り組むことにもつながりました。
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【授業展開(国語科)】
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【実習手順(家庭科)】
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~集中が続かない生徒のために~
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授業に集中できるよう、黒板周りの掲示物等をできるだけ減らし、背面の掲示板にまとめて掲示しました。また、机間の整理など整然とした空間づくりに努めることで、集中しやすい学習環境の整備にも努めています。
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【掲示板】
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【机間の整理】
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② 自己理解を深めるための構成的グループエンカウンターの実施
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キャリア教育を進めるうえで、自己理解を深めることは重要です。自己を知るスケールとして、また、仲間作りの基盤として、他者理解を深めることも必要です。高校生が何の手助けもなく自己を客観的に深く見つめることはなかなか難しいことですが、構成的グループエンカウンターのエクササイズで
本音を表現し合いそれを認め合うことで、意外と気がついていない自分のいいところに気づくことができます。
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~ 一言自己紹介 ~
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二人組になり、話し手は、あらかじめ設定された自己開示のハードルが低いいくつかの質問に答え、聞き手は相手の答えを受容的に傾聴するというエクササイズです。共感性が高まる中で、自己理解や他者理解が深まっていきました。
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~ あなたってすてきだ ~
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グループ内のお互いの良い点をそれぞれの視点で書いて送るエクササイズです。
同じクラスの中でも意外に話をしたことがない人がいるのが高校生です。普段接していない他者の窓からのぞいた自分は新鮮です。価値観の違う、他者からのフィードバックが本人の気づきを促します。また、このエクササイズは文字として残るので、後々まで自己肯定感が残ります。
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[生徒の感想]
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「優しいって書かれていてうれしかった。」
「あまり話したことがない人も私のことを見ていてくれていると分かった」
「自分のいいところをいっぱい見つけてくれてうれしかった。」
「人とコミュニケーションをとることが大切だと思った。楽しかった。」
「自分が人からどう思われているかが分かってうれしかった。」 |
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【「一言自己紹介」の様子】
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【「あなたってすてきだ」の様子】
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自己肯定感を高めることによって人生に対する明るく前向きなイメージを持つことができ、自己理解に基づいた長期的なキャリアプランを考える第一歩になりました。
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≪就労支援ネットワーク会議≫
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年3回会議を開催し、就労支援における各関係機関の役割を明確にし、就労支援体制の構築を図るとともに、学校におけるキャリア教育や就労支援に対する助言を得ています。
12月に開催した第2回の会議では、次のような助言が得られました。
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○ どのような仕事があるのか、どのような仕事に就きたいのかが分からない生徒が多い。早い段階から、職場見学や職場実習等を通して、「働くこと」や「卒業後の生活」について意識を向ける機会を持つことが必要である。
○ 生徒が進路を選択し決定するためには、自己理解が大切である。自分と向き合い、自分の適性を理解できないと、適切な就労には結びつかない。また、自分で進路を決定しなければ、就労は続かない。
○ 本人と企業のマッチングを進めていく上では、生徒の希望をどう引き出すかがポイントである。キャリアカウンセリング等を通して、自己理解を促し、進路選択を支援していくことも大切である。
○ 規則正しい生活やあいさつ、職場でのマナー、コミュニケーションの力など、働く上で大切なスキルを身に付けていく必要がある。 |
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≪企業への理解啓発リーフレット≫
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発達障害の社会的認知は十分とは言えません。
そこで、就労支援コーディネーターが職場開拓を行う際に、発達障害の特性や、少しの理解とサポートがあれば力を発揮できることなどを説明し、理解啓発を図っています。その際に活用するリーフレットを作成しました。(部分抜粋) |
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★ リーフレット (PDFファイル1)
(PDFファイル2)
(PDFファイル3)
(PDFファイル4)
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≪今後の取組≫
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今年度、様々な関係機関と連携しながら、高等学校の卒業学年の生徒に対する就労支援を進めていく中で、地域における就労支援ネットワークを構築することができました。
来年度も引き続き関係機関との連携体制や特別支援学校のセンター的機能を活用しながら、高等学校に在籍している発達障害等のある生徒に対するキャリア教育・就労支援のさらなる充実を図るとともに、モデル地域、モデル校における取組の成果を普及し、特別な支援を必要とする生徒の自立と社会参加の促進につなげていきたいと考えています。
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