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西条市立丹原東中学校 校長 岸田 英之 |
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1 はじめに | ||||||||||
本校区は県東部、道前平野の中央を流れる中山川中流域に広がる、高縄山系の扇状地に位置している。南に石鎚山を臨む見渡す限りの農耕地には米作を始め、あたご柿やキウイなどの果物栽培やバラの栽培が有名である。 現在の生徒数は261名、学級数は特別支援3学級を含む11学級の中規模校である。 生徒は穏やかで素直、生活態度も真面目な者が多い。 本校は「平成26・27年度文部科学省人権教育研究校」の指定を受け、人間の多様性に目を向け、全人口の約7.6%存在するとされる 「性的マイノリティの人権課題」についての学習を中心に置いて研究を進めてきた。その取組の一端を紹介します。 | ||||||||||
2 本校の具体的な実践 | ||||||||||
(1) NPO法人「レインボープライド愛媛」での現地研修 | ||||||||||
平成26年度、「性的マイノリティの人権課題」に初めて取り組もうとした際、教師にも全く知識がなかったため、当事者から差別の現実を学ぶことが必要だった。 そこで松山市にあるNPO法人「レインボープライド愛媛」を訪問し、現地研修を行った。 そこで性的マイノリティの当事者から衝撃的な差別の現実を聞くことができた。 それは、「小学校入学前に、赤いランドセルとスカートが嫌で泣いた」 「学校では女子トイレに入れず、ずっと我慢していた」、 「中学校ではセーラー服が着られず、一日も学校に行けなかった」、 「アンケートの性別欄に『女』と書けなかった」、 「親や友達に言えず、一人で悩んだ」、 「ひどいいじめにあい、真剣に自殺を考えた」といったものだった。 想像を超える差別の現実を知り、我々は「無知や無理解が差別を生むため、正しく知ることが学習のスタート」であり 「正しい知識とたくましい行動力を身に付け、啓発と問題解決のために動くことができる生徒を育てる」ことを共通認識とした。 10月には教師と生徒代表が現地研修を行い、当事者の生の声を聞いた。 平成27年度は、6月に教師と生徒が現地研修を行った。 |
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(2) 性的マイノリティの人権に関する講演会・人権集会・交流学習会 | ||||||||||
平成26年度2学期から、性的マイノリティの人権に関する講演会を計画的に行っている。 平成26・27年度は、レインボープライド愛媛の代表者に、参観授業の後などに生徒と保護者に向けて講演してもらった。 今年度は第1回をその代表に、第2回は性的マイノリティについて専門に研究している大学教授に、第3回は松山で性的マイノリティの支援を行っている弁護士に依頼して講演してもらい、 学習を進めてきた。 また生徒会の学級・人権委員会が中心となって、性的マイノリティに関する人権集会を実施している。平成26・27年度は現地研修会の報告などを行い、 今年度は初めて学習する1年生に向けて基本的な知識をパワーポイントで説明した。 これらに加えて、講演会で来校したレインボープライド愛媛代表や、本校の取組を見に来た当事者と交流会をもった。 生徒が当事者と親しく話すことで、より一層その存在を身近に感じることができ、特別な存在でないことを理解するとともに、差別の解消に向けて活動する意欲にもつながった。 |
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(3) 性的マイノリティの人権課題についての授業実践 | ||||||||||
性的マイノリティの人権課題についての授業を行う上で、最も困ったことは教材の少なさである。 今までに全国のどの学校でも取り組んでいない題材だったため、教えるための教材や資料が全くない状態だった。 そこで教師は、本やテレビ、インターネット等から資料を探して持ち寄り、教材として使えるかどうか検討してから文章に起こした。 そのあと、授業の流れを考えて授業を行い、反省と分析をして次の授業へとつなげた。平成26年度は全学年で同じ授業を行い、27年度からは各学年の発達段階に応じた教材で学習が進められるように、年間計画を練り直した。 正しい知識を学ぶ内容のときには、学年団の教師が協力して学年の生徒に全体学習として指導し、心情を育てる教材は道徳で扱い、行動へとつなげる実践化は総合的な学習の時間に行った。 | ||||||||||
(4) 性的マイノリティに関する人権啓発劇 | ||||||||||
文化祭では、性的マイノリティを題材とした人権啓発劇を上演した。平成26年度は性別違和の主人公の苦しみと同性愛者の告白を扱った「虹」を、 平成27年度はその続編として性別違和で悩む主人公と家族の戸惑いと理解を描いた「虹色のあした」という劇を上演した。 今年度は、一人ひとりが違うことは素敵だというメッセージが込められた絵本を題材とした「にじのたね」を上演した。 劇のフィナーレには、全校生徒がステージ下に集まって並び、オリジナルテーマ曲「虹色のあした」を合唱した。 | ||||||||||
(5) 地区別人権・同和教育懇談会への生徒の参加 | ||||||||||
平成27年度は地区別人権・同和教育懇談会のテーマを「性的マイノリティに関する人権」とし、 生徒が行動する力を試す場として地区別懇談会への参加を呼びかけた。 地区別人権・同和教育懇談会とは、町内の集会所や公民館などの23個所で年に一度行われる、 地域住民を対象にした人権学習会で、生徒たちは地域の人たちに自分が学んだことを伝え、 地域から差別をなくしたいという強い思いをもって会に臨んだ。 意見交換の場では、今までの学習から思ったことや考えたことを一生懸命地域の人に伝え、行動化への第一歩となった。 | ||||||||||
(6) 校外での人権啓発活動 | ||||||||||
「誰もが自分らしく生き生きと過ごせる社会にしていきたい」という思いを込めて、性の多様性を応援するポスターを生徒たちが制作し、 地域の公共施設等に掲示してもらうよう依頼した。 また、校区外の地区別懇談会や西条市民大学などで、性的マイノリティに関する人権学習の成果を多くの生徒が中心となって発表した。 | ||||||||||
3 おわりに | ||||||||||
今までの同和教育で培ってきた手法を生かし、性的マイノリティに関する人権学習を進めてきた。 多くの生徒が他の人権課題を学習しても、差別に対する憤りを感じ、その問題に真剣に取り組むので人権学習に深みが出てきた。 人間の多様性を個性として認め、それを基本に現存する様々な差別解消に向けて行動を起こそうとする生徒や、行動化をする生徒が増えてきた。 生徒の姿を見た保護者や地域の人の意識も変容しつつある。今後も、身近に必ず当事者がいるという視点に立ち、人権感覚を研ぎ澄まして、 生徒や保護者、地域に向けて人権啓発を続けていきたい。 | ||||||||||