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1 はじめに |
SPH事業とは、平成26年度から開始された、文部科学省が、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成するため、先進的な卓越した取組を行う専門高校を指定して研究開発を行う事業である。取組期間は3年間で、昨年度、今治工業高校が本県で初めて採用された。文部科学省が実施する他の事業には、県立学校において、松山南高校と宇和島東高校が指定を受けているスーパーサイエンスハイスクール(SSH)や、松山東高校と宇和島南中等教育学校が指定を受けているスーパーグローバルハイスクール(SGH)がある。 |
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2 研究開発課題名 |
地域水産資源を活用した、地方創生人材を育成するプログラムの開発研究 |
~新製品の開発と6次産業化、グローバル化への対応~ |
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3 研究の目的 |
愛媛県南予地域の基幹産業である漁業及び養殖業は、魚価の低迷、飼料の高騰、国内消費の低迷等により経営が困難な状況にあるが、その一方で、海外の水産物消費は健康志向等の理由で増加傾向にある。 本研究では、コミュニケーション能力、創造力・開発力・実践力の向上を図るとともに、食品製造現場においてグローバル基準に対応した専門知識を身に付けた生徒を育成することで、将来にわたって地域産業の活性化に寄与できる人材育成プログラムの開発を目指す。また、全国の漁村地域発展の先進的モデルとなるよう、水産・海洋高等学校が地方創生に寄与する人材育成の汎用的事例の構築を目指す。 本プログラムにおいて育成された人材が、地域水産資源を活用した新製品開発及び6次産業化へ対応し、製造工程の海外輸出規準への達成指導を行うことで、魚価の向上と生産量の増大を通じた地域産業の活性化につながることをねらいとする。 |
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宇和島東高校科学部との連携
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マグロ解体ショー
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4 研究の内容・方法 |
本研究において生徒に身に付けさせたい資質・能力を、(1)コミュニケーション能力、(2)創造力・開発力・実践力、(3)アントレプレナーシップ、(4)専門的な知識・技術、の四つに設定し、人材育成のため以下の取組を実践する。 さらに、地方創生に寄与できる人材に必要な力をコンピテンシー定着の観点でとらえ、(1)から(3)に関して、ルーブリックを用いたパフォーマンス評価により客観的に効果測定を行えるよう、評価手法の確立を図る。 |
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(1)コミュニケーション能力の育成に関する研究 |
①産学官連携による全国各地での愛媛県産魚プロモーション活動 |
本県が県産品のPR販路拡大を目的に県庁内に設置した県営業本部及び県農林水産部漁政課と連携し、全国各地で県産魚のPR活動を行う。また、産学官連携で多様な発表の場を設置し、愛育フィッシュプロモーション活動及びマグロ解体ショーを実施する。 |
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②国際交流活動 |
宇和島市と姉妹都市提携を結んでいるホノルル市(ハワイ)では、「愛媛フェアinハワイ」が毎年開催され、「えひめ高校生ハワイ派遣事業」で毎年愛媛県下の高校生がハワイに派遣され交流を深めるなど、つながりが非常に深く、現地の学校とは今後も継続的な連携協力を得られる関係にある。共同製品の開発及び現地での販売を視野に入れた現地高校生との交流活動を通じ、文化の異なる国の消費者に対応する貴重な機会とする。 |
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ハワイ「カピオラニコミュニティーカレッジ」
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ハワイ工場視察「アロハ豆腐」
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③SSH、SGH、SPH指定3校による連携活動 |
地方創生に寄与する人材育成には、地域産業の実情及び現場が抱える課題を発見、理解する能力の向上が不可欠である。地域に愛着を持ち、地域に関わって良くしようとする精神「シビックプライド」の育成を共通テーマとし、宇和島市内の、SSH、SGH、SPH指定3校連携で、地域産業を取り巻く課題を調査し、解決につながる具体策を提案する取組を行う。得られた成果は市内小中学校等に広く発信するとともに、実行可能性の高い案は地域産業界へのプレゼンを通じ、多様な意見や考え方に触れながら、改めて自己の意見や考え方を再構築する機会とする。この取組では、主体的・対話的な学習活動を積極的に取り入れながらコミュニケーション力の向上を図り、地域や社会の実情を踏まえ、課題解決に向け、幅広い視野を持って行動できる人材の育成につなげることを目的とする。 |
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宇和島南中等教育学校との連携
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レトルト温度分布測定
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(2)創造力・開発力・実践力の育成に関する研究 |
①産学官連携による地域水産物を活用した製品開発研究 |
県南予地域の基幹産業は漁業及び養殖業であるが、国内消費の低迷が続く中、新たな販路として、海外に向けた製品開発及び販売活動の推進が求められている。ここでは科目「食品製造」「課題研究」を中心に、産学官連携による愛媛県食材を利用した製品の開発研究を行い、専門家の講義を受けたり、試験販売、試食提供を行いながら、地元水産物の強みを生かした6次産業化への取組を進めていく。 |
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②SPH先進校との連携学習 |
SPH先進校の岐阜県立岐阜商業高等学校と熊本県立南稜高等学校と連携し、実践力・創造力・起業家精神を育成する取組や、互いの地域の生産物を利用した製品の共同開発を通じて、新たな価値や特徴を発見しながら、効果的な販売活動につなげることをねらいとし、実践的に創造力・開発力の育成を図っていく。 |
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③「えひめスーパーハイスクールコンソーシアム」、日本水産学会への参加 |
SPH、SSH、SGHの指定校、各職業学科の代表校、えひめ高校生次世代人材育成事業参加生徒等が一堂に会して行われる「えひめスーパーハイスクールコンソーシアム」や、日本水産学会への参加を通じ、生徒は各自の取組を発表し、広く発信する。また、他校の実践発表を聞くことでアイデアを生み出すきっかけとし、創造力の育成を図る。さらに、専門家や有識者から様々な意見や助言を聞くことで新たな知見を得ながら、自身の研究の改善につなげていく。これらの取組はPDCAサイクルのチェック機能としての活用が期待され、生徒が各自の研究をブラッシュアップすることで実践力の育成につなげていく。 |
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(3)アントレプレナーシップの育成に関する研究 |
①講師招請事業 |
地域課題の解決に寄与できる人材は、あらゆる制約を乗り越えて社会に変革をもたらすチャンスを追求する精神「アントレプレナーシップ」を身に付けていることが求められる。そこで、起業家等、実社会で課題解決に積極的に取り組んでいる方を講師に招き、講話及びワークショップ形式での研修を通じてアントレプレナーシップを実践的に身に付ける機会とする。 |
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②国内外での販売実習活動 |
実習製品、開発製品等の販売実習活動を行う。生徒は製品の特徴を捉え、チラシやポスター、ラベル製作を行い、効果的な販売方法を検討し、新たな販路拡大を試みる。取組を通じて実践と改善を繰り返す中で経営的感覚を養うとともに、多様な制約を乗り越えながら課題解決に寄与できる能力を身に付けていく。さらに、海外輸出に関してのモデルケースを構築することで、アントレプレナーシップの向上を図る。 |
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(4)専門的な知識・技術の育成に関する研究 |
知的財産教育講義 |
①製品開発を通した知的財産教育 |
製品開発を通して、生徒は、自ら設定した課題を解決するが、アイデアを生み出す過程、アイデアの新規性、有効性を検証する過程、出願書類の作成を通じて知的財産へと具現化していく過程等に取り組むことで、知的財産及び知的財産権制度への理解を深めていく。ここでは、製品開発により、付加価値の向上した地元水産物の価値を守ることのできる人材を育成するため、専門家の講義及びワークショップ型のアイデア創出活動を通じて、専門的な知識・技能の育成を図る。 |
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②食品製造実習室の対米輸出対応施設化研究 |
地域産業の活性化に向けて海外への輸出拡大を図る場合、輸出に対応した施設の整備が不可欠である。必要とされる専門的な知識・技術を育成するとともに、地域メーカーのモデル施設となる食品製造実習場の構築を目指す。 この取組では、最新の食品衛生管理方法や製造技術に関し専門家による講義を受け、米国食品医薬品局(FDA)への施設登録に必要な条件を学ぶ。また、学科教員が殺菌管理主任技術者、巻締主任技術者を取得することで、将来にわたって地域企業を支援できる生徒の育成を図るとともに、企業が海外向けに販路拡大する際は、本校卒業生が中核的存在となることを目指す。 |
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③「食の6次産業化プロデューサー」認定施設研究 |
生産と加工・販売の一体化や、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進する6次産業化は、地域創生との関係が深いことから、水産分野においても強く求められている。 食の6次産業化を担う人材の認定・育成を目的とした国家戦略プロフェッショナル検定に「食の6次産業化プロデューサー」制度がある。水産食品科では育成プログラムを実施する教育機関としての認定を目指し、6次産業化を推進する人材育成を図る。 |
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米国食品安全強化法(FSMA)に関する日本貿易振興会(JETRO)講義 |
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(5)コンピテンシーの定着を客観的に測定する評価手法に関する研究 |
コミュニケーション能力、創造力・開発力・実践力、アントレプレナーシップの三つの資質・能力の育成を図る際、コンピテンシーの定着を測定することで客観的な評価を実施する。 ここでは、ルーブリックを用いたパフォーマンス評価による効果測定を行うことで評価手法の確立を図るが、中央大学キャリアセンター「知性×行動特性」学修プログラムのコンピテンシーに関する研究をもとに、普通科とともにコンピテンシーの定着及び測定に関する研究を進めていく。この取組を通じ、将来にわたって地域産業の活性化に寄与できる人材育成のため必要なコンピテンシー及び効果測定等について、一定の結論を得る。 |
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5 おわりに |
本県は、人口減少に伴う地域の過疎化が大きな問題となっている。そのため、地域の文化や経済について理解するとともに、諸外国との交流を促進し、活気ある愛媛を創造することのできる人材、地域のリーダーとして牽引することのできる人材の育成が急務と考えている。 問題意識を持ち、新しいことに挑戦することで、既存の社会をよりよく変革することができる人材の育成を目指す教育を展開することで、地域や社会の実情を考えながら幅広い視野を持った人材が育成でき、本研究のノウハウの中で育成された若者が、地域に活力をもたらし、地方創生を担うことにつながると考えている。 |
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