私の教育実践

私の教育実践 -かけがえのない命を輝かせるために-
愛媛県立新居浜特別支援学校長 宮本 祥恵

地域の特色を科学的かつ経験を活かしてとらえる学習の実践
新居浜市立北中学校 教頭 藤原 正治

私の教育実践
-かけがえのない命を輝かせるために-

愛媛県立新居浜特別支援学校長 宮本 祥恵

 このたびの西日本豪雨で被害に遭われた地域、学校の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。愛媛県内でも、土砂災害等によって多くの尊い命が奪われ、悲しみに堪えません。
 私は、特別支援教育の道に入って34年になります。振り返ってみますと、自分の持つ教育理念の根源は、命の尊さを子どもたちに伝えたい、そしてそれぞれのかけがえのない命を精一杯輝かせてほしいという思いであったかと思います。
 自分の命の尊さを知り、自分の体や心を大切にできる子どもは、毎日を一生懸命に生きる人になります。そして、他人の命の尊さを理解し、周りの人の体や心も大切にできる人になります。その命の尊さや生きることの素晴らしさを伝えていくことこそ、教育者の使命ではないかと私は考えます。

 20年以上前に担任をしていた小学1年のYちゃんは、自傷行為が止まらず、お母さんが料理をするときも寝るときも、自傷行為をしないよう常に手をつないで生活していました。学校生活のいろいろな関わりの中で、自分自身を傷つけることが少しずつ減っていったYちゃんが、つないでいた私の手を振りほどき水遊びを始めた瞬間は、その感覚とともに今でも鮮明に覚えています。そうやって、自分を大切にし始めたYちゃんは、笑顔が増え、排せつが自立し、そして、どんどん人と関わる楽しさを知り、自分の世界を広げていきました。

 授業になかなか参加できず、暴言や暴力が見られた小学3年のMちゃんは、家庭環境に恵まれない子でした。私たち教員は、視線や態度でMちゃん大好きビームを出し続け、言葉でも「Mちゃんが大好きだよ。」と言い続けました。暴言を吐いてしまった後、泣きながら「Mのこと好き?」と自分への愛情を確かめずにはいられなかったMちゃんは、数年後には、廊下ですれ違いざまに、はにかみながら「先生のこと、大好きで。」と言ってくれる素敵なおねえさんになりました。

 校長になった今は、若い先生方の熱意と愛情いっぱいの指導に触れて幸せを感じる毎日です。高等部2年のRくんは、いつも投げやりな態度で、遅刻してきては授業にも出ず、ふらふらしていました。その態度を注意されると、逆上して物を振り回したり壊したりしていました。行くところがないと、校長室にも来て「つまらん。」「俺のことを分かってくれん。」とふてくされていました。3年生になった今、久しぶりに出会ったRくんに「最近、校長室に来ないから寂しいよ。」と言うと、にっこり笑って「忙しいんよ!」と答えるではありませんか。「俺にしかできんことがあるけんな。仕事のことも考えんといかんし。」そして最後には、私への気遣いも忘れず「暇になったら、また行くけん。」とRくんは言いました。後で担任に「どんな魔法をかけたの?」と聞くと「Rが言いたいことは何か、一生懸命耳を傾けただけです。」と。

 特別支援教育の教員として、その専門的知識や指導スキルも重要なことですが、基本は、教員が目の前の子どもを大好きになり、真剣に向き合い、一人の人格として大切に接することではないかと思います。その関わりこそが、命の輝きと言えるのかもしれません。これからも、子ども一人一人のかけがえのない命を輝かせるために、そして、先生方の命も輝いていくよう尽力していきたいと思っております。


地域の特色を科学的かつ経験を
活かしてとらえる学習の実践

新居浜市立北中学校 教頭 藤原 正治

1 はじめに
 私が勤務する新居浜市立北中学校は、別子銅山からの銅鉱石輸送の拠点であった口屋跡など江戸時代からの産業遺産が残る、新居浜の礎ともいえる地域に位置する中学校です。そして天体の中でも動かざる星である北極星を校章に掲げ、生活スローガンである「まじめに、元気に、根気よく」の下、昨年で開校七十周年を迎えました。また、生徒会を中心にボランティア活動が活発であり、ユネスコスクールの一員として「SDGs」を目指した取組にも熱心です。さらに、来年度からはコミュニティ・スクールとして学校と保護者や地域の皆さんがともに知恵を出し合い学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え「地域とともにある学校づくり」を行う予定です。
 このように学校とその所在する地域との関係性はますます重要になっていますが、この地域の特色を科学的かつ経験を活かしてとらえる学習の様子を紹介していきましょう。
2 社会科地理的分野における「地域調査の手法」・「地域の在り方」の授業実践

 新学習指導要領では、資質・能力の育成のために、社会的な見方・考え方を用いて社会科学習を行います。これは、知識・技能や思考力・判断力・表現力、取り組む態度を育てるために、社会的事象を空間軸や時間軸、相互関係軸で示し、生活との関連で考えることを意味しています。そこで、私は社会科地理的分野の授業で、地域の特色をとらえることは概念探究型学習過程で、地域との協働や対話などで価値判断を伴う部分は価値分析型学習過程で深い学びを行っています。
 それでは、具体的に、地理的分野の新単元である「地域調査の手法」と「地域の在り方」の授業でみてみましょう。
 まず、「地域調査の手法」では主体的で深い学びとして、概念探究型学習過程で調査地域の特色を明らかにします。そして、地域がその環境と相関しながら成り立っていることを因果関係で示すことができるように学習します。もう少し具体的にいうと、地域を歩きながら情報収集をして、情報の分類や比較をすることで「その地域にはどのような地域的特色があるのか」という学習問題を設定します。次に「環境を生かした地域が成立しているのではないか」という予想・仮説を挙げ、実際に直接調査をして検証をします。そして調査結果を因果関係を踏まえた説明文で示します。ここまでが概念探究型学習過程です。
 続いて、「地域の在り方」では対話的で深い学びとして、価値分析型学習過程で地域調査から浮かび上がる社会問題について事実分析を行います。そして、日本の農業が目指す栽培農業の在り方を未来予測することで、農系社会回復に対する意志決定をする学習を行います。この学習を通して、持続可能な社会を生きるために、地域性を明らかにし、自分ごととして「問い・考え・表現する」社会科学習を実践していきたいと思います。
 これまでの農業学習は高い収益を得るためや、効率的な労働生産性をねらった市場原理に基づく農家の利潤増加を念頭においたものが多くありました。そこで、本授業では集約・粗放概念とエネルギー投入量との関係を基準として農業について論争する授業を設計するようにしました。そこで、図3における「☆」の部分の農業についての論題を学級集団に提起します。そして、農系社会回復の必要性について、一人一人が意志決定を行います。

3 愛媛県「小・中学生のふるさと学習作品展」に対する取組

 私は社会科授業で地域を科学的にとらえる学習だけではなく、総合的な学習の時間を中心に地域を経験的にとらえる学習も行っています。
 新居浜市では、総合的な学習の時間に、ふるさと学習として近代産業遺産である別子銅山関連の学習がさかんで、中学校では旧別子から銅山越を越えて東平の歴史資料館を登山体験及び遺跡見学する学習を各校が実施しています。また、新居浜南高等学校のユネスコ部による出前授業で高校生の視点から別子銅山の遺跡群の紹介をしていただいています。
 このような体験知を生かしながら、愛媛県教育委員会社会教育課が毎年行っている「小・中学生のふるさと学習作品展」の壁新聞部門に毎年出品できるように、夏休みの課題の一つに「愛媛の偉人賢人調べ」に取り組んでもらっています。この数年間は県で上位に入賞する作品が増えだしたので、過年度の入賞作品を校内掲示して、作品制作の参考にしてもらっています。

4 おわりに

 このように地域について、社会科で科学的に合理的意思決定能力を育てるとともに、総合的な学習の時間で暗黙知の形成を深める学習を行うことで、地域の特色をとらえるとともに、多面的・多角的に地域のとらえ方を学ぶことができていると感じています。今後もこのような学習を継続することで、学校とその所在する地域との関係性を更に深めていきたいと思います。