上島町立弓削小学校 教頭 菅 洋二
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1 はじめに |
弓削小学校がある弓削島は、瀬戸内海の中央、広島県との境に位置する自然豊かな島です。古くから塩田が広がり、荘園として京都の東寺に塩を納めていた記録が残っています。現在では造船業に携わる人が多く、海苔の養殖も盛んです。島内には国立弓削商船高等専門学校があり、ヨットの停泊料が安いことや、景色がすばらしいことから、ヨットマンの聖地と呼ばれ、世界中のヨットマンが集まる国際色が豊かな島です。小学校は海に面し、弓削島だけでなく、「ゆめしま海道」でつながった佐島の子どもたちも通う、全校児童91名、へき地1級の学校です。それでは、離島の小規模校ならではの取組をいくつかご紹介します。
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2 学校の取組 |
(1) 水泳授業 弓削小にはプールがなく、水泳授業は学校に面した海で行います。夏休みの校内水泳大会には、500m遠泳の部があり、3年生以上が挑戦します。50m間隔のブイを5往復しますが、船が近くを通ると高波が起きるので、海水を飲まないように気を付けて泳がなければなりません。友達や保護者の熱い声援を受けて普段以上の力を発揮し、6年生にもなると、7割の子どもが完泳します。
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(2) 砂浜集会 砂浜集会は、海岸の砂を使い、縦割り班単位で巨大アートを作る集会です。事前に、その年のテーマに合うデザインを話し合い、係や飾りに使う材料などを相談します。当日は、各班のリーダーが防波堤の上に立ち、イメージどおりの形になるよう指示します。高学年は汗をかきながらシャベルで大まかな輪郭をつくり、低学年はバケツを片手に、飾りに使う貝殻や海藻を集めます。巨大な作品ができあがった後はみんなで鑑賞し、記念撮影です。作品は、潮が満ちれば跡形もなく消えてしまいますが、子どもたちの心にはずっと残るはずです。
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(3) 研究指定校事業 本校は、平成29・30年の2年間、国立教育政策研究所の教育課程研究指定校となり、小規模校のよさを生かした学習指導等の在り方を研究し、学校・家庭・地域が一体となり「学びのシステム」を構築することを目指しました。実践内容は、次の三つです。
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① 少人数のよさを生かす学習指導 確かな見取りを位置付けパターン化した授業を行ったり、「個人カルテ」や「個別の指導計画」を基に、個に応じた指導を徹底したりすることで、全ての児童が授業の中で、めあてを達成できるようにしました。
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② 表現力(伝え合う力)を育む学習指導 表現することの楽しさを味わわせる「ことばタイム」を実施したり、様々な活動の中で自分の考えを表現する場を意図的に設けたりすることで、豊かな表現力が身に付くようにしました。
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③ 学校・家庭・地域が一体となった「学びのシステムの構築」 保護者との連携による「学習強調週間」や、ICT機器を活用した「みんなの学習クラブ」、放課後、弓削商船の学生にサポートによって開かれる学び直しの場「夢現塾」などにより、正しい学習習慣と基礎的な学力が身に付くようにしました。また、学校ホームページでは、学校の様子や学習の成果を頻繁に発信しており、閲覧数が1,000を超える日もあります。
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これら三つの取組により、基礎的な学力と豊かな表現力を身に付けた子どもたちが育ちつつあります。
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3 地域とのつながり |
(1) 海を泳ぐこいのぼりプロジェクト 昨年度から始まった「海を泳ぐこいのぼりプロジェクト」。地域の方々に呼び掛け、集まった鯉のぼりを運動場で泳がせるという企画です。保護者や地域に呼び掛けた翌日から鯉のぼりが学校に届き始め、次第に数が増えていきました。
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プロジェクト当日は、漁協の方、地元企業の方、保護者や子どもたちが大勢集まりました。海岸に面した照明用の柱にロープと滑車があっという間に取り付けられ、みんなで60尾ほどの鯉のぼりをロープに結びました。やがて、合図とともにクレーン車のアームが立ち上がると、鯉のぼりが一斉に空に舞い上がり、歓声と拍手が起こりました。校舎の窓からは、本当に鯉のぼりが海を泳いでいるように見えます。子どもだけでなく、手伝ってくださった地域の方々の笑顔も印象的でした。
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(2) 海に浮かぶクリスマスツリー・プロジェクト
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静かな弓削島では、子どもたちが下校し、日が暮れると町全体が静かになり、聞こえてくるのは汽船と波の音だけです。「もっと、子どもたちの笑顔が見たい」という地元企業や町の電気屋さんのご厚意で、クリスマスイルミネーションをバッグネットに飾ることになりました。夕暮れの空を背景に、初めてクリスマスツリーが点灯したときには、サッカークラブの子どもも立ち止まり、大喜びしました。すっかり日が沈んでからは、ひときわ明るく光り、みんなの目を楽しませました。対岸の生名橋からも小さなツリーを確認できました。
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4 おわりに |
弓削小学校がある弓削地区には、学校教育に協力的な保護者だけでなく、子どもたちが喜ぶためなら一肌脱ぐ!という方々が大勢います。今では死語となりつつある「地域の教育力」が今でもしっかりと受け継がれ、地域が力を合わせて子どもたちを大切に育てていることを強く感じます。弓削地区では、今年からコミュニティ・スクールが導入されますが、これからも子どもたちの健やかな成長と地域の発展を願い、学校・家庭・地域がさらに一体となって教育活動に取り組んでいきます。 本校の取組についての詳細は学校ホームページをご覧ください。 https://yuge-e.esnet.ed.jp/
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