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「おはようございます」―朝、幼稚園の玄関に響く子どもたちのこの声。そして、その時の表情。「今日も元気だよ」「ちょっぴり気持ちがしんどいよ」など、その声と表情は、その日の子どもたちの気持ちのバロメーターだと思っています。 園生活の中で、子どもたちの気持ちのバロメーターは、その時々で変化していきます。 カップに土を入れてデザートを作っていた子から、「さら粉(乾いた極め細かい土)がほしい。」との声が聞かれました。前日は雨だったので、地面はぬれていました。その子は、手のひらを地面に置いて、さら粉ができる土を探しました。「ぬれとる。」と、残念そうな表情。別の場所に行って、手のひらを地面に置いて確認しましたが、「ここもだめ。」との声。 そこで、「どんな所に、さら粉はあるかな?」と声を掛けると、その子から、自分のひらめきに自信を感じさせる「屋根のあるところ。」との答えが返ってきました。そして、屋根のあるいろいろな場所へ出向き、やっと、さら粉ができる土を見つけた時の「あった。」の声。その声と表情には、うれしさが感じられました。 手のひらの感触によって地面のぬれ具合を確認したり、屋根のある所には雨が降らないという知識を出してきたりなど、これまでの経験を生かしながら遊ぶ姿に、その子に掛けた「さら粉が見つかってよかったね。」の私の声は弾み、共に喜びを味わうことができました。 その後、「さら粉、どこにあったん?」と聞いてきた友達に、「あそこにあるよ。」と教える姿に、その子はもちろんですが、私自身も誇らしさを感じました。 また、大きな砂山を作って、自分たちが通れるほどのトンネルを掘った子どもたちのことです。 1日目は、何度も挑戦するものの、砂山が崩れ、「あー壊れた。」「うまくできん。」「どうしたらいいかな?」との声が聞かれました。しかし、その声に悲壮感はなく、「絶対に完成させる」という、やる気にみなぎった表情が見られました。 2日目は、前日に考えていた方法を実行する子どもたち。トンネルが貫通した時の「やったー。」の子どもたちの声には、友達同士の団結力と力強さを感じました。また、実際に、子どもたちがトンネルを通り抜けた時の「やったー。」の声と表情には満足感が漂っていました。 私もこのトンネルを通り抜け、「よく頑張ったね。先生も通ることができてうれしい。」と声を掛けました。そこには、友達と同じ目的に向かって、最後までやり遂げた喜びを実感してほしいという気持ちと賞賛の気持ち、そして、私自身の喜びの気持ちも詰め込みました。 園生活を送る中で、子どもたちは心配なことや自分の思いどおりにならないこと、友達とのトラブルなどに出合いますが、子どもたちにしっかりと寄り添いながら、共に解決を図り、困難を乗り越えた時に喜びへと変えることができる教師でありたいと思っています。 子どもたちは、毎日、一生懸命「自分育て」をしています。そして、私自身、そのような子どもたちの姿から、たくさんの喜びを与えてもらっています。そのことによって、私の気持ちのバロメーターが上がり、「自分育て」につながっていることを実感しています。また、「さようなら」―降園時のこの声とその時の表情は、その日の園生活における気持ちのバロメーターとして表れるものだと思っています。 これからも、子どもたちの「さようなら」の声が、次の日の登園が待ち遠しい気持ちにあふれる「さようなら」の響きとなるように、また、次の日の期待に膨らんだ表情での「おはようございます」の声につながるように、子どもたちから喜びを与えてもらうことができる生活に幸せを感じ、感謝しながら、保育に努めていきたいと思います。
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私が自分の専門科目である地理を好きになったのは、小学校の頃でした。社会の授業で地図帳を渡されたことが始まりです。地図帳で平野は黄緑、山は高くなるほど茶色が濃く色分けされていますし、河川は青色の線で表されていました。私は、ボールペンで河川の河口から源流までたどったり、平野の輪郭をたどり面積を比較したりするのが楽しみでした。今思えば、そういった作業を通して、いろいろな地域の地形や景色などをイメージするとともに比較していたのだと思います。 地理の学習はまず、イマジネーションを呼び起こさせることが大切です。そこがどのような地域か、地形、気候や産業を知り、そこで人々はどんな生活をしているのか、イマジネーションを働かせると共に、他の地域と比較し、なぜそうなのか、解明しようとする学問が地理です。学んでいくうちに、様々な事象が関連し合って、その地域の風土や歴史、人々の生活が成り立っているのが分かったときは、まるで難しいパズルが解けたときのような喜びがあるのです。高校時代に恩師と出会い、自分も生徒たちに大好きな地理を教えたい、地理の面白さを伝えたいと思うようになり、地理の教師になりました。 >授業で特に心がけたのは、映像や写真、図表などを多く取り入れた分かりやすい授業です。外国の見たこともないような地理的事象をいくら口で説明しても分かりません。「遠くのものを身近なものに、難しいことを分かりやすく」を心がけて授業の工夫に取り組みました。 「百聞は一見にしかず」という言葉があります。生徒に教える教材としてどの映像・画像、図表が適切か、それを授業のどこでどのように使うか、いろいろ考えました。例えば、「天井川」という地形がありますが、これを教えるために現在の西条市の大明神川の下をトンネルでくぐっているJR予讃線の動画を撮りに出かけたりもしました。わずか数秒の動画ですが、ここは地元愛媛の全国的にも珍しい教材であり、川の下を鉄道が通過するのを目にすることで、天井川がどんなものか、まずイメージでき、この地形がどのようにして形成されたのか、学習意欲を高めることにつなげることができたと思います。バチカン市国の面積が、松山城の城山の面積と同じくらいであるとか、外国の農場などの面積を、勤務校や身近な市町の面積と比較して教えたりもしました。 地域調査について学ぶ単元もありますが、愛媛県では4年ごとに高等学校教育研究会地理部門主催の「地域調査」が実施されています。全国的にも珍しいこの調査は、夏休み中に行われ、県内高校の地歴公民科の教員が対象地域となった県内の市町で数日間合宿し、フィールドワークを行い、調査報告書をまとめています。60年前に始まったこの調査のこれまで対象となった地域は23か所に上りますが、私はこの調査に11回参加しました。最近地理を教える教師の中に、大学で地理を専門に学んだ者が少なくなりましたが、教師自身が地域調査の手法を実際に学ぶよい機会であると思います。 急速にグローバル化が進展する現代社会において、世界諸地域の自然環境から産業、民族・文化に至るまで守備範囲の広い地理教育の重要性は言うまでもありません。これまで地理の教師として、自分の思い描くような、地理を学ぶ面白さ、楽しさを生徒に伝える授業ができたかどうかは分かりませんが、大好きな地理を若い生徒たちに教えることを職業として今までやってこれたことは、本当に幸せだったと思います。 これまでたくさんのことを教えていただいた先輩や同僚の先生方、つたない授業を受けてくれた生徒たちに心から感謝申し上げます。
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